第1章 アネモネの夢00~50
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不安はあれど、安心できる人が傍に居ることで心身共にそこまで荒れていない百合が、今日もバリバリと働いている頃。
社長室で、その部屋の主である松本と一社員であり問題行動が見られつつある男性社員が面談を行ってた。
「杉田君、呼ばれた理由は判るかい?」
「いえ、その……思い当る節がないのですが」
「そうか。実は、昼休みに君の行動を見た方から、君の問題行動について注意すべしとご忠告頂いてね」
「どういうことでしょうか?」
男性社員――杉田は松本の言葉にどの営業先での話だろうかと必死に考えを巡らせるが、つい昨日までの事を思い浮かべても全く思い当る事がない。
そう考えていた杉田の様子を見て、困ったような表情を見せた松本が口を開く。
「君は無自覚なのか、認めたくないのか。どちらにせよ、彼女を害するならそれはやがてわが社の大きな損失になる。わかるかい?」
「っ!?」
「昨日の昼休み、彼女が嫌がっているのにそれを認めず、彼女の腕を強く握り無理やりにでも昼食を共にしようとしたらしいね。あれはセクハラ行為ではないのかと問い合わせが入ったんだ」
「そ、そんな! 彼女は恥ずかしがっているだけでッ!」
「恥ずかしがっていたり、遠慮しているなら、君への返答は『嫌だ』ではないだろう?」
松本の発した言葉に、漸く自分の問題行動が何に対してなのか気付き、息を飲み込んだ杉田が続いた諭すような内容に反論を試みる。
相手が自分の社の社長であってもきちんと意見を口にできる、その度量は認めるべき才能だろうと松本は杉田を観察しながら思考する。
ただ、思い込みが激しい部分があるのがその才能を大きく阻害する恐れがあるな、という評価も下しそれを改善するためにも今ここで釘を刺すべきだと判断する。
「……彼女は、僕と話す前から一線を引いていて取り合ってくれず、だけど、どうしても彼女と話だけでもしたくて」
「なるほどねぇ……。だけど、初めて声を掛けた時には彼女は真摯に向き合い、きちんとした返事を返したんじゃないのかい?」
「それはっ! でも、付き合いもしていないのに今後も一切ダメだと切り捨てるようなことは、僕から声を掛けたのに!」
「うん、君は自分に自信があるんだろう。女性にもモテるだろうし振られたこともない。だから、彼女から振られる理由が受け入れられない」