第14章 Sugar14
「ただいま。あれ?お前なんで泣いてんの?」
いつの間にか帰ってきた彼が、私の頭を撫でながら顔を覗き込んで、そう言った。
「泣いてた?ごめん、なんでもない。」
「ほんとに?」
「うん、幸せだなって思っただけ。」
自分で泣いてることに気付かなかった。
本当にすごく幸せで、涙が出てくる。
嬉し涙みたいなやつなのかな?
「さっきの・・・お前のこと教えて。大丈夫、どんなことでも。俺はもうお前のこと、離さないって言っただろ。」
誰のどんな言葉よりも安心する。
私は、この人の隣にずっといていいんだ。
これから先ずっと彼の隣にいるなら、全部知らなきゃいけないし、知ってもらわなきゃいけない。
なにも心配することなんてない。
どんな私でも、この人は私を愛してくれる。
「私ね、昔から不安定になることがよくあるの。生理とかじゃなくてね?心が弱くて・・・。」
大丈夫、彼はちゃんと聞いてくれる。
否定もしない。
「これ、見て・・・?」
メイク落としを使って、左手首を擦った。
露わになっていく無数の傷が、憎たらしい。
本当にどうして、こんなことをしたんだろう。
「流司さんに会ってからは、一度もしてない。別れた時も、我慢した。」
「死にたかったの?」
真っ直ぐに目を見つめられて、言葉がつまる。
「それもあるけど・・・流れる血を見て、生きてるって実感出来たんだ。」
「それってさ、別にやめなくてもよくない?そりゃあやらない方がいいかもだけど、やめて辛くなるくらいなら、そっちの方がいいでしょ。でも、やるんなら俺がいるところでね。」
こんなにも優しい人はいるんだろうか。
今まで皆、やめろって言ってきた。
逆にそれが辛くて、嫌で・・・どうしようもなかった。
「ふっ、うぅ・・・流司さん・・・!」
「泣くなよ。・・・てか俺、それ、気付いてたよ?隠してるつもりだった?」
知ってて、私が言い出すまで待っててくれたの?
気付いてたのに、嫌にならかったの?
気持ち悪くないの?
面倒臭いと思わないの?
「言ってよ、必死に隠してた意味ないじゃん・・・!」
どんな私でも否定しないで受け入れてくれる彼の笑顔が、とても温かかった。