第13章 Sugar13
舞台に上がると客席から、こそこそと話す声が聞こえる。
なにを言ってるかは、聞き取れない。
「たぶん皆は、名無しのメイクっていう名前は聞いたことあると思うけど、どんな人かは知らないよね?ちゃんと自己紹介して。」
マイクない。
どうすればいいの?
めっちゃ大きい声出せばいいの?
あたふたしてると、アンサンブルの方がマイクを持ってきてくれた。
「えっと・・・皆さん初めまして、名無しのメイクこと、鈴木心羽です。よろしくお願いします。」
私が自己紹介すると彼は、満足気に微笑んで続ける。
「いつも俺を加州にしてくれる人だよ。俺たちの業界ではね、皆、この人にメイクしてもらいたいと思うくらい、上手いの。」
そんな褒めないで・・・そんなすごくないから。
「紹介はこのくらいにして・・・皆が知りたいのは、なんでこの人を呼んだか、だよね?」
流司さん、緊張してる。
声が少し震えてる。
いつもは、そんなに緊張しないのに・・・。
「ふぅ・・・えっとね・・・。」
中々切り出せない彼。
私はただ、彼が話し出せるのを待つ。
客席から、頑張れー!とか、ゆっくりでいいよー!とか聞こえる。
皆、優しいね。
「俺は今・・・彼女と、交際しています。」
なんか急に、微妙に、流司さんになったね。
緊張し過ぎて、素に戻っちゃった?
客席が一気に静かになる。
この静寂が、怖い。
「皆に報告するってことは、すっごい本気で・・・もうプロポーズはしてます。でも・・・もう1回ここでさせてもらえますか?」
え?・・・そんなの聞いてない。
もう1回プロポーズなんて、聞いてない。
「ごめん、その前にすることがあったね。皆は、俺たちのこと認めてくれる?大切な皆だから、ちゃんと認めてもらいたいんだ。親よりも先に皆に認めてもらいたい。」
私たちはまだ、お互いの両親に挨拶をしていない。
先にファンの皆に、報告したかったから。
親には、結婚したい人がいるとだけ伝えてある。
お母さんは誰かは知ってると思うけど、会ったことがない。
涙を流す人、驚きを隠せない人、さまざまいて・・・まだ急過ぎて、ちゃんと理解出来てない様子だ。