bond of violet【文豪ストレイドッグス】
第4章 青い花
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クロードは、帰路を辿っていた。
事務所からではなく、図書館からの。
まず手始めにと借りたのは、正面に飾られていた山と月の記録…のような趣の本。
それから、名作だとデカデカと売り文句が書いてあった、人間という種から失格となってしまったという…ような趣の本。
クロードには全くわからなかったが、その重みを感じ、先程の国木田の言葉を思い出すと、胸が痒くなる。
いったいどんな感情と出会うのか、どんな人々と触れ合えるのか。
気になって、気になって、速足になる。
そんな、平和な帰路はひとつの小さな影で暗く歪んだ。
その翳りがクロードの目に入った瞬間、すべてが止まった。
その衝撃に先程の本を、袋ごとごとりと落とす。
先ほど丁寧に扱えとあれほど注意をくらったというのに。
そんなことすら、忘れて。
「…どうして」
「よお。随分と元気そうじゃねえか。」
少し小柄な、帽子をかぶった茶髪の男。
この男の名前を、クロードは知らない。
心が、
血が、
騒いでいる。
鼓動がひとつ鳴るごとに、その振動が身体中を駆け巡る。駆け巡って彼は自分にとって大きな存在だと語りかけてくる。
クロードはそんな痛みに、恐怖した。
「あなたは、誰ですか?」
「……手前に名乗る名なんぞねぇ。名無しの権兵衛でいい。」
「…権兵衛さん。」
鼓動は絶えずに、未だ全身に振動を伝えている。
「なあ、お前の名前はなんだ。」
「名前、」
「お前の生まれてきた意味はなんだ。お前はいったい、誰だ。」
彼の息継ぎのない質問に、クロードは答える間を見つけられない。
私の生まれた、意味とは。
私とは、何か。
「私の名前は、クロード・ギヨー。私は…」
震え声でつなぐ言葉を、彼は帽子をふかくかぶり直すことでせいする。
「わかった。」
「え」
そう言うと彼は、踵を返し、クロードに背を向けた。
クロードはただ、何もわからないまま立ち尽くす。
そうしているうちに彼は翳へと溶けていった。
クロードにはわからない。
ただ、
彼が自分に向かって激しく強いひとつの感情を向けている、ということだけ。
立ち尽くした自分を見た彼が、苦しそうな表情を浮かべていたことだけ。
どうしようもなく、わかったのだった。