bond of violet【文豪ストレイドッグス】
第1章 between the two colors
空が赤い。
夕焼けで景色の全てが赤く見える。
そんな赤い光に満ち溢れたキラキラとした世界を、ビルの上から眺めている。そんな影が2つ。
1人は縁に座って、1人はその影を後ろから見つめて。
縁に座っている方の影が、声を上げる。
「夕焼け、綺麗ですね。」
「あぁ。」
「夕焼けって……赤色が1番遠くまで届くから赤いんですよ。」
その声は、少女のものだった。高く、か細い、切ないような声。
「そんなこたぁ、知ってる。」
後ろの影は、どうやら男のようだ。
男にしては小柄な、その帽子をかぶった男は、やはり、男にしては少しだけ高い声を出す。
「…赤は、強いんです。遠くまで、届いてくれる。きっと、記憶にも、みんなの記憶にも残ります。」
風が吹き、彼女の綺麗な白金髪が赤い光の中でキラキラと揺れる。髪の間からチラと覗く眼は夕陽と同じ赤い色だ。
「…怖いか?」
男の言葉に、彼女は返事をしなかった。
男は帽子を押さえながら、ただ彼女をじっと見つめた。
「……あなたにも赤色、届きましたか?」
蚊蜻蛉のようなその声は、男に届くことは無かった。
彼女はクルリと振り返ると、その赤い眼を細めてにぃっと笑った。
「もう、夕焼け小焼けの時間ですよ。帰りましょうよ。」
「…あぁ。」
二人の影が消えていく。
赤い光も、消えていく。
誰もいなくなったビルの上。宵の明星だけがキラキラと輝いて、夜の帳が降りていった。