第1章 一章
朝、目が覚めて先ずする事は会社を辞める為に辞表を書く。私の人生なんてモブに等しい。もうニートになろう、そうしようと絶対来る事はないであろう会社に足を進めた。これで緋色組がいれば話しも変わって来るのだろうが、残念な事に新一くんはリアル小学生、赤井さんは未だアメリカ、降谷さんは刑事で忙しい。助けを求めるのには無理があるだろう。
「見知らぬ加藤さんと、犯人がいるのかは知らないが…私のこれからの人生を軽く潰した事。呪うわ」
そして刑事は信じない。そう潔く辞表を叩きつけて街を歩いた。元社員達や元上司達からの視線やコソコソと陰口を言う声を耳にする。だから私は誰も殺してないってば!そう大声で叫びたかった、けれどぐっと声を押し殺して胸を張り続け出て行った。今からどうしようか、そうふらふらと街を歩く、いつの間にか眩いくらいの大きく真新しいビルが目の前に聳え立つ。こんな会社あっただろうか、定礎石を見ると『アヴァロン』と英語で書かれている。
「ここが…アヴァロン」
こんな会社に就職出来たら、きっと将来安泰なんだろうなー…なんて思うがそんな事は天地がひっくり返ってもありえないだろうと通り過ぎる。
「マスター?」
どこかでマスターと誰かが言った気がするが、幻聴だろうと私は家へと帰っていった。
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二日経ったある日、刑事達から深々と頭を下げられた。どうやら私の容疑が晴れたようだが許せるくらい心は寛大でもない。冤罪で捕まりそうになったこちらの身にもなって欲しいくらいである。この二日間の間で一体なにが?と思い尋ねるように一体誰が犯人だったんです?と聞くと渋る刑事達。個人情報を言うのは余り良くないのだろうが、しかし冤罪で捕まりそうになった私には聞く権利はあるはずだ。
「お答え出来ませんか」
「………」
私の静かな問いに、黙っていた刑事の一人が重い口を開いた。なんでもいきなり訪ねて来た若い男がその事件を見て来たかのようにすらすらと推理を行って来たらしい。
『犯人は…浅井一さんの恋人である、荒野 秋枝(あらの あきえ)さんです。荒野さんは仕事の出来る柚月に不満があり、なにより会社の資金を横領していた。その事で上司の加藤さんにバレてしまい脅されてセクハラやパワハラ行為に悩んでいた。我慢出来なくなった荒野さんは柚月に罪を全て擦り付ける形でビルから突き落とした』