第1章 砂漠の月00~70
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政宗の誘いで肝試しが始まり、一組、一組と順にコテージを出て社に向かう。
感覚をあけて出ているため余程でなければ鉢合わせすることはない。
月子は晴久とペアで行ってね、と市に言われて頬を染めつつこっくりと頷き可愛い! と抱きつかれた。
元就とペアで出て行った市を見送り、時間をあけて月子も晴久とコテージを出る。
「流石に真っ暗ですね」
「そうだな。怖いか?」
「うーん……晴久先輩も居なくて、星も見えないと怖いかもしれないですけど、今は怖くないです」
「そうか」
社までの道は途中から街灯もなくなる山道だ。懐中電灯一つを頼りに歩いていく。
晴久は月子が転ばないように手を繋ぎ、ゆっくりとして歩調で進んでいた。
あと少しで社という所まで来て、急に懐中電灯の灯りが消えた。
「え?」
「大丈夫だから動くな」
「はい……」
驚いて一歩後退った月子を引き寄せ、晴久が腕の中に囲うとある一点を睨む。
そこにはぼぅっと蒼白い火の玉が揺れており、クスクスという子供の笑い声がそこかしこから聞こえてくる。
「晴久先輩?」
「動くなよ……」
「えと……はい」
腕に囲われたまま動けない月子が不思議そうに名前を呼んだが、緊張した声で動くなと言われて首を傾げながらも頷き大人しくなる。
その間にも火の玉はゆるゆると近付いており、晴久は迷ったが悪いモノなら婆娑羅を使う心積もりで睨みつける。
不意に、月子がピクリと肩を揺らし下を見た。
『お姉ちゃん、あそぼ?』
「え……と……」
『遊ぼう? ねぇ、遊ぼう? 遊ぼう? あそぼう』
見た先には子供のような影があり、月子の足にベッタリと張り付いていた。
月子は顔がないその影と、何故か目が合ったと感じ、視線が逸らせなくなる。
遊ぼうという言葉が徐々にドロドロとした怨嗟の声に変わり、月子の身体が重くなっていく。
『遊んでくれないなら、お前を貰ってやろう!』
「ひっ?! やっ!! 晴久先輩っ!」
「誰が渡すかっ!」
返事をしない月子に焦れたのか、襲い掛かってきた黒い影を、一陣の風が切り裂いていく。