第1章 砂漠の月00~70
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市と元就がアクセサリーの交換をしている横で順番を待ちながら、月子はチラリと晴久に視線を向けた。
晴久も市と元就を見ていたが、やはり夏休み前のような沈んだ様子もなく苦笑しているのが見え、月子は漸く無意識にホッと息を吐いた。
そして市と元就に視線を戻したがまだ空きそうにないのを見ると、月子は晴久の所へと移動する。
「晴久先輩」
「ん? もう出来たのか?」
「はい」
名前を呼べば柔らかい笑みで返されて月子の頬が薄っすらと紅色に染まる。
月子は問い掛けにコクリと頷きながら、スタッフに頼んで吟味させてもらった石の一つを晴久に差し出す。
ストラップにしたそれは、晴久が好んで身に付ける着物の色に近いもので、飾り紐も器用に編みこんで作ってある勾玉だ。
周囲がアクセサリーにする中で、月子はストラップにしたのだ。
「これ、晴久先輩に」
「いいのか?」
「えと、迷惑じゃなければ貰ってほしいです」
「迷惑なわけないだろ。サンキュ」
晴久がどう思うかが不安で控えめに貰ってほしいと伝える月子に、晴久は笑みを深くしてくしゃくしゃと月子の頭を撫でる。
その勢いに慌てて、わたわたする月子を今度は宥める様に撫でてから手を離し、晴久も月子に手を出せと言う。
「ほら」
「ふぇ?」
言われた通りに差し出した手の手首に、晴久がブレスレットを着けた。
一瞬それがどこから出てきたのかわからずにきょとんとした表情で晴久を見た月子は、悪戯が成功した子供のような顔を見せられ再びブレスレットを見る。
よく見れば、この体験の手本にあったブレスレットの色違いで、もしかしてと思うと目を見開き声なく晴久を見る。
「元就は市に作るだろうし、俺が着けるのもな。だからお前に作ってみた。嫌なら外して捨てろよ」
「捨てない! 捨てませんっ! もーっ! なんで晴久先輩はそういう意地悪言うんですかっ!」
捨てろと言われた月子の半泣きでの意外な剣幕に目を瞠った晴久は、市と元就も滅多に見なかった嬉しそうな表情を浮かべて月子を撫でた。