第1章 砂漠の月00~70
今日用意した差し入れは、きっとお腹が空いているだろう彼の小腹を満たしそうな差し入れである。もちろん、手作りだと気持ち悪いだろうとお勧めの店舗のモノだ。タオルも新品で、出来る限り気分を害さないようにと神経を使っている。
「……ダメでもともとだったんだし、今日だけ、渡してもうやめよう。朝挨拶して、返してもらえるようになっただけで十分だよ」
後ろ向きな自分が出てきて、そう呟いたらもうそれが正しい気がしてしまった月子は泣きそうな顔で紙袋を見ると、ふっと諦めたような笑みを零した。
誰にも見られていないその表情を隠すようにぎゅっと目を瞑り俯くと、数秒後、顔を上げて時間を確認する。丁度移動した方が良い時間だった。
「よし……」
もう何度もやっているけれど、慣れないなと苦笑しながら気合を入れて最近待つ時の定位置となりつつある場所に移動した。
紙袋を渡したらすぐに駆け出せるように荷物を持ち直して待っていれば、月子の前に晴久が通りかかった。
「尼子先輩! これ、今日の差し入れです! お勧めのお菓子も入ってるので、ご飯前の小腹を満たすのに食べてみてくださいね! それじゃっ!」
「待った!」
「きゃっ?!」
また明日! と駆けだそうとしたところで晴久が月子の手を掴んで引きとめた。不意打ちで引っ張られた月子は踏ん張ることも出来ず後ろに倒れた。
ドサリ、という音が月子の耳元で響き背中を暖かく硬いモノが受け止めた。
それが何かを理解するより前に、月子の月子で更に聞き心地の良い声が響いて思考を停止させた。
「悪い、あんたに渡したい物があったんだが勢いが強すぎたな」
「……あ、えっ?」
「大丈夫か?」
ゆっくりと背中と肩を支えられて傾いでいた身体を直され、屈んだ晴久が月子の顔を覗き込む。理解が追い付かない月子は突然目の前に迫った晴久の顔に目を見開き、口をはくはくと動かすと声も出せず頬と言わず顔から首までを淡い紅色に染めた。
傍では一緒に居たメンバーが人知れず散って行っているが、晴久は頓着していないようで月子の方はもちろんそれどころではなくただただ大丈夫かという問いにコクコクと必死に縦に首を振っていた。