第1章 砂漠の月00~70
04
「小野さん! さっき尼子先輩が小野さん探して教室来てたよ!」
「へっ……?」
昼休み、教師に呼ばれて職員室に行っていたため不在だった月子は応対したクラスメイトが頬を染めて報告してきたそれに、魔の抜けたような返事を返して目を見開いた。
「尼子先輩、来てたの?」
「そう! なんか包んだ風呂敷持ってたけど、あんた何やったのよ」
「え、いや……何もしてないはず、だけど……」
かっこいいと評判の先輩と話せたからか、テンション高く普段ならほとんど話もしないクラスメイトに詰め寄られて月子はしどろもどろになりながら返事を返す。
思い返してみても尋ねて来て貰うような何かはないはずで、一体何が起こったのかと内心でパニック状態だ。
無意識に視線を向けたのは自分の机、その横に掛けた今日の差し入れの紙袋である。
「どうしよう……」
「何が?」
「あ、ううん。なんでもない。いなかったのが申し訳なかったなって……」
「ああ、大丈夫よ! 優しそうだったし、きっと怒られたりはしないって! 先生に呼ばれてたんでしょ?」
「うん……」
差し入れをしようかしまいかで迷って零れ落ちた言葉を、まだ近くに居たらしいクラスメイトに拾われて問いかけられ慌てて誤魔化すとバシンと背中を叩かれ月子はよろめいた。
励ますように言う相手に、曖昧な笑みでこくりと頷いた所で予冷が鳴り月子は自分の席に着いた。
頭の中は晴久が来た理由を考えるので一杯で、午後の授業はほとんど上の空になってしまった月子はその日いつもの場所には行かずに図書室に向かった。
終了時間はある程度把握しているので、何も最初から最後まであの場所に居る必要はないので上の空だった分の復習をするためだった。
しかし、図書室で自習中も集中は出来ず、視線はチラチラと隣の椅子に置いた差し入れの紙袋に向かう。
「どうしよう……やっぱり迷惑だったんだよね……」
勇気を出す、と決めた時の自分を振り返りやっぱり諦めておけば良かったのかもしれないと後悔が押し寄せる。
ジリジリと心の中で葛藤を繰り返した月子は、軽く唇を噛んで俯くと今日で最後にしてしまおうかと思い詰めて紙袋を見る。