第1章 砂漠の月00~70
弓を選んだ時、傍には居なかった気がするのにどこで見られていたのか。月子はなぜか恥ずかしくなり俯きながらも気遣いに小さな声で礼を言う。
晴久がポンポンと頭を撫でるのを受けて顔を上げると早速構えてみろと言われる。
漫画やドラマで見た見様見真似の構えをすると、そこから順番に正しい姿勢へと変えられていく。
その教え方が、背後から月子を抱くような形で、月子は頬の熱を鎮めることも震えを止めることも出来ない。
「そうだ、そのまま打ってみろ」
肘を支えられた状態で言われ、月子は言われるままに弓に矢をセットしていた手を放す。
ヒュッという音がして、数秒もたたずバシッという的に何かが当たった音がした。
月子が的を見ると矢が刺さり、弓は弦を的の方に向けて手の中で揺れていた。
「お、月子はセンスあるな。ちゃんと的に当たってるぜ」
「わ、私……」
「上出来だぞ。もう何回か、今度は一人で打てるかやってみて打てたら合流しような」
よしよしと褒めるために髪をかき混ぜる手がぽんと跳ねて離れるとまた、練習が始まる。月子はだんだん打つのが楽しくなってきて、言われるままに素直に直していったのでそこそこ打てるようになっていた。
そこで晴久とともに市たちのところへ移動すると、二手に分かれてポイント合戦をしているところだった。
「あ! 月子ちゃん、こっちよ。はい、ここからあの的打って?」
「は、はい……」
市に手招かれ、肩を掴まれてスタートラインに立たされると目の前の的を射ろと言われ、わたわたしながらも矢を番えて的を狙う。
晴久に言われたことをひとつずつ思い出して丁寧に弓を引くと矢は真っ直ぐに飛び、的の真ん中近くに突き刺さった。
「おお! 月子ちゃん凄いね!」
「よし、ちゃんと言ったこと出来てたぞ」