第1章 砂漠の月00~70
そうしながら、彼が同じ学校だと気付いた時のことを思い出す。それは全くの偶然だった。移動教室で偶々上級生の教室がある前の廊下を歩いていた時だ。
「おい、落としたぞ」
「え? あ……」
「ん? 違ったか?」
「あ、いえ! 私のです! ありがとうございます!」
声を掛けられて振り返った月子の前に、晴久がハンカチを持って立っていたのだ。
顔を見た瞬間、ポスターに乗っていた人物とそっくりそのままなその顔に言葉を失くし、困ったような表情で手にしていたハンカチと月子の顔を見比べて頭を掻いていた。
はたと我に返ってハンカチを受け取れば、お礼を言う頃にはもう踵を返して先を歩いていた幼馴染たちに追いついて行っていた。
彼にとってそれは何でもない日常の一つで、記憶に残ることもない物だと思うが月子には衝撃の出会いだった。
それから、そういうことを知っていそうな友達に声を掛け、尋ねて漸く晴久や市、元就についての情報を得て少しずつ月子は晴久に惹かれていった。
ここで部活風景を眺めるようになったのはつい最近のことだが、これではストーカーじゃないかと自分でもやや不安に思っているのはさすがに口に出さない。
回想から意識を戻すとそろそろ部活動が終わる様な時刻になっていた。視線を上げて晴久の方を確認すれば、例にもれず部活動は終盤になっていた。
月子は慌てて荷物を片付けると、彼が通りそうな場所へと移動した。待ち伏せはあまりよろしくないけれど、こうしないと会う機会も作れないのだから仕方がない。
「同じ学年だったら、もう少し違ったのにな」
ぽつりとつぶやいた言葉が空気に溶ける頃、足音と数人の賑やかな声が聞こえてきた。顔を上げて、晴久が通るのを待つ。