第1章 砂漠の月00~70
「え、ちょ、晴久先輩っ!?」
「煩い。お前、コレどうしたんだよ」
「なあに? 晴久……月子ちゃん、それどうしたの?」
「いくら鈍いとはいえ、そうも怪我をしてはおらなんだが最近多いな」
「あ……えっと、その……」
歩き始めた直後のことで、数歩先を行っていた市たちが戻ってきて晴久の行動を訝しんで覗き込んでいた。月子のおでこや晴久が握っている手を見た市と元就も、やはり目つきが鋭くなる。
怪我、と元就にはっきりと言われたことで月子も漸く何を言われたのか判ったが、その説明は直ぐには出来なかった。
何しろ月子自身にもさっぱりと理由が解っていないからだ。
「市の家行くぞ」
「そう、ね。ここで話しても、ね」
「足は大丈夫なのか。昨日からびっこを引いておるだろう」
「う……だいじょぶ、です」
三人に次々に言われ、月子はあたふたしつつもコクコクと頷き足は大丈夫だと頷く。階段を落ちかけた時に多少ひねっただけで、違和感があるため無意識にびっこを引いていただけで捻挫にもなっていないと言われている。
保険医の明智に言われた内容を素直に伝えれば、ひとまず収まったらしい三人が普段よりも遅い歩調で再び歩き出す。
そのまま市の家に連行され、ソファに座らされて周囲を囲まれるとさすがにまだまだ慣れない月子は若干怯えてしまった。
僅かばかり泳いだ目に気付いたのか、隣に座った晴久の手がぽんっと頭の上を跳ねて、月子が視線を向けると大丈夫だと言うようにくしゃくしゃと撫でてから離れて行く。
それから、改めて問いかけられて聞かれた内容を順番に答えることになった。
「怪我、どうした」
「えーっと……私も良く解らないんですけど、最近よく誰かとぶつかっちゃうんです」
「誰かと?」
「はい。振り返ってももう居なくて、誰だかわからないんですけど階段とか、廊下とか、あとは図書室とか」