第1章 砂漠の月00~70
市の家に着き、荷物を置かせて貰った月子が見せて貰ったデザイン画を見ての一言に返った言葉は衝撃だった。
市のクラスに居る先輩と言えば……と思い浮かべて、月子は確かに女装コスプレ、似合うかもしれないなどと納得してしまった。
何せ、元就と晴久を始め、朝の挨拶の時に顔を出す市のクラスは美形が多かったという記憶がある。月子自身はさほど美形に対して何を思うでもないので晴久以外に反応はしないのだが、見る分には目の保養とか思っていたりする。
「で、これを縫うのを手伝ってほしいの」
「あ、はい。パターンは」
「既製品をアレンジして、もう用意してあるわ」
「承知しました! お裁縫は好きなので、お役にたてるように頑張ります!」
着物を作る様な和裁は出来ないが、着物好きが高じてまずは洋裁をと手習いに幼い頃から色々作り自分の洋服くらいは作れる程度に腕があるのは誰も知らない月子の特技である。
ここで役に立てるなら、と張り切って渡されたパターンを切り出し布を裁断し始める。
市から渡されたパターンも、頼まれた衣装も、晴久が着るのが入っているのは全力で気付かないふりをした月子である。気を向けると手元が狂うからなのだが、それは言わないお約束。
市はそんな月子を見てクスクス笑いながらも自分も手を動かしていた。
そうして過ぎた準備期間は、当日を迎えた。一日目は身内だけなので月子は昼ごろに自分の受付担当の時間が終わると交代して晴久たちのクラスへと顔を出した。
「月子ちゃん、いらっしゃい」
「市先輩!うわぁ……かっこいいですね!」
気配を消すように人に紛れていた月子を、市が見つけて声を掛けた。月子の方も市を見つけるとそれまでの遠慮気味な笑みが嘘のように消え、ふんわりと嬉しそうな笑みを浮かべて駆け寄っていく。
その姿を偶々目にした男子生徒がチラチラと月子を見ているが、気付いた市に遮られて月子本人には届かない。
嬉しそうに市と会話をする月子を中へ案内して座らせると注文を受けて市が厨房があるのだろう方へと入っていく。
「本格的だなぁ……」
自分が縫った衣装を纏う男子生徒たちを眺め、その着こなしぶりを見て出来栄えに満足しながら目の保養をしていた月子の前にひらりと黒い布が翻った。