第2章 砂漠の月71~150
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市が行きたいと言った夏祭りは、浴衣を新調して会場に辿り着くとカップルごとに別行動となった。
元就が何をするつもりか知っていた晴久と、なんとなく察していた月子は上手くいくと良いと言い合いながら自分たちのデートを楽しんだ。
そして次の休みから、元就と市は二人で住むために必要な物を見に行くようになり、月子は晴久と二人でデートを繰り返している。
「夏休みは海に行くって言ってたけど、いつから同棲するんだろう? 兄さんがかなり張り切ってる気がする」
「そうだなぁ……夏休み中に全部整えるんじゃね?」
「……かも。お引越しのお祝いでも買う?」
「ある程度目星つけた方がいいかもな」
今日は二人とも和服で夏の装いをして川辺で行われている行事を見に来ている。一応、尼子家の名代であるらしいが挨拶などはなく、訪れた最初に責任者に顔を見せるだけで良いと言うものだ。
時折晴久が父親や祖父の代わりにやっていることで、月子も楽しい行事だろうからと誘われて来ているのだ。
あちらこちらで和楽器の演奏が行われ、河岸では子供たちが水遊びに興じたり、木陰ではお茶が配されて和菓子屋が夏の新作を披露していたりする。
昨今の日本行事や伝統工芸、芸能が見直されてきた結果、地元のそういう職人に目を向けて貰おうという企画らしい。
「兄さんも市先輩の楽しそうだし、嬉しそう」
初夏も過ぎ、本格的な夏がやってきた頃合いにしては爽やかに吹きぬけていく風に目を細めながら、月子が川べりの方を見ながらポツリと寂しそうに零す。
横でそれを聞きながら、晴久は繋いでいた手を持ち上げて甲に唇を寄せる。
途端に勢いよく月子の顔が晴久の方を向いて、目が合うと一瞬で首まで紅くなるのを満足気に見た晴久は持ち上げていた手を自然と横に降ろすと止まった足をまた動かし始める。
引っ張られるのに釣られて歩き出した月子は、繋いでいない方の手で持っていた日傘の柄越しに熱い頬を抑えて俯いてしまう。
「どっかに消えるわけでも、会えなくなるわけでもないだろうよ」
「それは、そうなんだけど……なんか」
「なら、俺らも一緒に住むか?」
「え?」