第2章 砂漠の月71~150
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母の日が終わってすぐ頃からそわそわしていた月子は、晴久に呼ばれて部屋にお邪魔しながら恐る恐る口を開いた。
「あの、ね?」
「うん? どうした?」
「その、まだ早いと思うんだけど……来月の父の日に、晴久さんのお父さんにもプレゼントってあげていいかな?」
「あ? 親父に?」
「うん」
ダメ? と首を傾げる月子に、目を瞬かせきょとんとした表情の晴久は予想外の問いかけに返事が出来なかった。
何も言われないことにだんだんと不安になってきた月子が申し訳なさそうな顔をしたのを見て、漸く我に返ると慌てて頭を振る。
「いや、大丈夫だ。つか、俺からよりよっぽど喜ぶと思うぞ」
「……ほんと? 晴久さん、嫌だったりしない?」
「しない。ちょっと、予想してなかったのと余計なこと考えただけだから」
「余計なこと?」
今度は月子の方がきょとんとした表情をしながら晴久を見ると、照れたように顔を逸らしながら晴久は首の後ろを掻いて小さく呟く。
しかしその声は月子には届かず、変わらず首を傾げている月子にふっと息を吐きだすと手を伸ばしてくしゃりと頭を撫でた。
わしわしと撫でてから抱き寄せると、膝に座らせてぎゅっと抱き込む。
――市が結婚意識して元就の母親に渡したのと同じ理由だったらなとか思ったとか、また気が早いって言われちまうかな。
訳が分からずわたわたとしている月子から顔を隠すように抱き込んで、内心でそんなことを思いながら苦笑する。
晴久が放してくれないと判ると、腕の中で大人しくなった月子は背中に手を回して抱き着いてくる。
そのまま二人で何するでもなく体温を感じていると、平和だなとのんびりとした意識が晴久の脳裏を過る。
そんな日は緩やかに過ぎて、月子は現在市と同好会の活動中である。
「じゃあ、月子ちゃんは晴久のお父様にもあげるのね」
「はい。何が良いかは晴久さんにもお願いして一緒に見に行こうと思ってるんですけど……」
「良いと思うわ」
二人で器用に手を動かしながら作っているのはドーナツである。揚げるのは危ないからと、焼きドーナツを作ってみようという話になったのだ。
同好会に入会する生徒は去年から更に希望者が増えているが、面接である程度人数を絞って見合わない人はご遠慮願っている。