第1章 砂漠の月00~70
「馬鹿だなぁ……そんなん、お前に出来ねぇ事くらい分かってたぞ? 最初の自己紹介から無理して押せ押せの女の振りして」
「っ?! し、知って……?」
「当たり前だろ、声も手も震えてたじゃねぇかよ」
「うっ……だっ、ああでもしなきゃ話しかける勇気も持てなくて……ごめんなさい」
初見から自分が装っているのがバレていたことに羞恥と申し訳無さでしゅんと俯き、謝罪の言葉を口にすると話しながら傍まで来ていた晴久が横にしゃがみ込み月子の頭をくしゃりと撫でる。
その手が今まで通りに優しくて、ボロボロと涙が溢れるのを止められない。
「あの親じゃ、お前にどうこう出来ないのもわかるが、言ってくれりゃこっちだって動きようがあるだろ?」
本格的に泣き始めたを慌てるでもなくあやしながら、淡々と告げてくる晴久に月子は力なく首を横に振り迷惑を掛けたくないと繰り返す。
過去、同じ事を言ってくれた友人も居たが、相談した途端に離れていってしまったり親に狙い撃ちされて酷い目に遭わせてしまった。
その友人たちの視線が、蔑むように月子を見るあの瞳が晴久たちから向けられるかもしれないと思うととてつもなく怖かった。
元就の言葉も否定出来ない自分に、この行動自体が過ちだったかもしれないとこの短期間で何度も思った。
「は、晴久、先輩たちは違うって、思ってもっ! 怖かったっ!」
泣きながら言った月子は、逃げてしまったのだという事に漸く気付いてごめんなさいを繰り返す。
晴久が頭を撫でていた手に力を込めて引き寄せてくるのを拒めず、促されるままにその腕の中に納まるとそれまで以上に込み上げてきてもう言葉も紡げない程に月子は泣いた。
どれだけ泣いたのか、月子が泣き止む頃には既に親との話を着けた保護者組は帰っており、月子の傍にはずっと抱き締めてくれていた晴久と扉の横の壁にもたれるように立っている元就だけが居た。
「月子」
「っ……は、い」
「其方の親の会社は織田が牛耳った。其方のことも、手出し無用と話をつけた。今後は二度とこういう事はない」