第1章 砂漠の月00~70
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――リンゴーン、リンゴーン
月子にとって幸福だった一時が終わり休日に入った。
毎週行われているという織田家でのお泊り会は用事があるからと断り、月子は親の指示するままに全寮制の女子校へと転校するための荷造りをしていた。
そこに来客を知らせるチャイムが鳴り、母親が応対に出る声が聞こえてきた。
「ちょっ、ちょっとあなた達なんですかっ?!」
「あんたじゃ話にならない、旦那を出せ。それと、月子はどこだ?」
「なっ?!」
揉めるような声が聞こえ、訝しんだ月子が荷造りの手を止めて扉を開けると同時に飛び込んできた声に目を見開く。
「うそ……晴久先輩……?」
ポツリと呟いた声はどこまで響いたのか、月子は居ないという母親の声を無視して家の奥へ入ってくる足音が聞こえ、途端にパニックになると部屋の奥へと舞い戻る。
「どうしよう、どうしよう……なんでっ?!」
「よぅ、月子……黙って居なくなろうなんてひでぇじゃねぇか」
「は、晴久先輩、な……んで……?」
鍵を掛け忘れた扉をお泊り会で昴だと教えられた市の兄に先導された晴久がゆっくりと開き、入ってくる。
蹲ってどうしようとなんでを繰り返していた月子は、怒気の混じった声にビクリと肩を竦ませて顔を上げると視線が絡んだ。
絡んだ視線の奥で、晴久に傷付いた色を見つけ月子の抑え込んでいた心もヅキリと痛み、そんな資格がないと思いながらも涙が零れ始める。
「友達になったんだろうが、なんで言わねぇんだよっ!」
「友達になれたからっ! 友達になれたばっかりだったからっ! それが、夢みたいで幸せだったから……あんな親のせいでそういう目的で近づいたなんて思われたくなかった……」
声を掛けようと決めた時、こんなにもすんなりと友達になってくれるなど思っていなかった月子は続けてる内にうっとおしがられて嫌煙されると思っていた。
だからこそ、自分が諦められるまでか見合いの日取りが決まるまでを期限として自分に設けたのだ。
そうして意を決して声を掛けた晴久は、思っていたのとは違ってとても良くしてくれた。それが出来始めた友情であっても、無くしたくないと必死になるほどに優しくして貰えた。