第2章 砂漠の月71~150
現れて月子のピンチを救ったのは先ほど助けて欲しいと願って呼んだ晴久で、顔を上げれば涙で霞む向こうに僅かばかり髪型と服装が乱れて怒りのあまり無表情になっている晴久が見えた。
「晴久さん……」
「悪ぃ、遅くなったな。大丈夫か?」
「うん……うん、晴久さん来てくれたから……」
晴久にしか聞こえないような小さな声しか出ない月子に、晴久が心配そうな表情で声を掛けるとほっとしたような表情でコクコクト頷いた。
顔色は悪いが怪我をした様子がないことを確かめてホッとした晴久は、目の前で唖然としている坂本へ視線を向けた。
さすがに、どこぞの御曹司なら晴久のことを知っているのだろう。目を見開き、何が起こったのか理解できないという表情で晴久と、その晴久に安心して身を任せている月子を見つめる。
「な、何故……」
「何故、だと? 人の女に手ぇ出しといてそれかよ」
「人の女……? 月子は」
「お前が月子って呼ぶんじゃねぇよ。こいつは俺の女だ。お前みてぇなぼんくらが触っていい女じゃねぇよ。人の話も聞かねぇ、自分に都合よく解釈して嫌がるもんも無理矢理手にしてきたお前にゃわかんねぇだろうよ。しかも、こいつはもう織田の傘下である毛利の末娘だ、何に手を出したか身を持って知れ」
「なっ……!? お、俺はっ!」
「お前が何様でも関係ねぇよ」
すぅっと細められる晴久の冷たい瞳に、坂本はさすがに何に手を出したのか理解はしたらしい。しかし諦めが悪いのか、それとも晴久や月子が噂に聞く本人だと認められないのか口を開こうとする。
それに声を被せて言葉を止めさせた晴久は、坂本の後ろから来た人物に視線を向ける。釣られて振り返った坂本はそこに立つ四人に目を見開き、息を飲んだ。
立っていたのは理事長である織田信長とその妹、市、そして月子の義兄となった元就、および生徒指導の半兵衛である。