第2章 砂漠の月71~150
「えっと……お断りします」
「何を言う、断ることは許されない。お前は俺に従うしかないのだ!」
「えっ……やっ、やだっ! 離してくださいっ!」
月子はその場所故に少々の油断をしていたのだろう。新入生があちらこちらに居る中で、目の前の男子生徒――坂本に腕を強く引っ張られ抵抗する間もなく引き込まれる。
その胸板に辿り着く前に両手を突っ張って倒れる身体を止めたが、月子を引っ張った手は既に手に回り坂本に抱きしめられる形になった。
周囲の新入生たちはまだ月子についてほとんど何も知らない上に相手がどこぞの御曹司である。何か口を出して恨みを買うことは出来なかったし、何も知らない外部入学の新入生はただのデモンストレーションだと思っているようでやはり何も言わない。
月子は囲われた腕に嫌悪感を抱き鳥肌を立て、顔を青ざめてそこから逃げ出そうともがくが力の差は歴然であった。
「嫌よ嫌よも好きの内と言う。好いているのに身分差を気にしているのか、なんといじらしい!」
「ちがっ! やだっ! 嫌なのっ! 付き合っている人が居るの! 離してッ!!」
「何? 付き合っている男等、俺よりも格下だろう! 君は俺を選ぶに決まっている! そうだ、キスでもしてやろう! そうすれば俺の良さが判るはずだ!」
「やっ! やだーっ! 晴久さんっ! 晴久さっ……」
「ふざけんな、クソガキ」
逃げられない月子がパニックになっているのも、ただ恥らっているだけだと自分に都合の良い解釈をした坂本が月子の顎を掴む。
痛みに顔を歪めても意に介さず、必死に突っぱねる手も力任せに折り曲げ顔を傾げ近づけていく。月子は晴久の名を呼んで助けを求めたが、名字を言わなければ新入生にはまだ判らないだろう。
いよいよ唇が触れるかどうか、という所で唐突に二人の間にどすの利いた声が割って入り月子の身体が坂本の手から背後へと引き抜かれ抱きしめられた。
月子がパニックのまま今度は誰だと怯えたのは一瞬で、触れた体温と嗅ぎ慣れた香りを無意識に悟って膝から力が抜けるとその身体を柔らかく抱き上げられた。