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砂漠の月

第2章 砂漠の月71~150


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市が毛利家を訪れる少し前、月子は晴久が贈った可愛らしいバッグを片手に着物姿でお気に入りのカフェに来ていた。
そのカフェは婆娑羅学園からもほど近い場所にあり、月子が晴久を知る前から時々訪れる場所であった。
既に常連となっている月子はそのカフェのマスターである女性に出迎えられ、少しだけ世間話をした後は客が居なければ指定席の様になっている席に案内され、注文を終えると本を読み始める。
晴久には何度めかのデートの時にここに一緒に来ており、今日は着いてからLINEで一人ここに居ることを伝えてあった。
兄である元就同様、部活中である晴久からの返事はないが特に不安になることもない。
のんびりと過ごす時間を楽しんでいると、夕暮れ近くになって席に近づく誰かの気配に顔を上げた。

「晴久さん……」
「LINE、返事したの気付かなかったか?」
「うそ……あ、ごめんなさい。マナーにしてたから」

晴久の言葉に慌てて携帯を確認して謝る月子に、晴久は微笑んで気にするなと伝えると向かいの席に座る。
注文を取りに来たマスターにコーヒーを頼み、月子に切りが付くまで読めばいいと声を掛けると晴久はテーブルに肘をついて頬杖で月子を眺め始める。
見られることに頬を赤らめながらもコクリと頷くと、月子は本を読み始める。
コトリと音がして、晴久の分のコーヒーが置かれた音は月子の耳を右から左へと抜けていき、月子が読むことを止めるまで晴久は飽きることなく月子を眺めていた。
そうした帰り道、ご飯を作ってくれと強請られて月子は家に連絡を入れると晴久と夕飯の材料を購入して尼子家に来ていた。
台所で晴久に手伝って貰いながらご飯を作ると、晴久の父と祖父が手放しで喜びながら食卓に混じる。食べ終わって片付けを済ませると、帰りは送っていくからと晴久の部屋でくつろぐ。
月子を抱きかかえて満足そうな表情で携帯を弄っていた晴久が、携帯を放り出すと月子に声を掛けてきた。

「月子、デートしようぜ」
「ふぇ?」
「春休みはまだ二人でデート、してねぇだろ?」
「それは、そう……だけど」
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