第1章 砂漠の月00~70
荷物を持ち直し、予定の時間に学校に着くために苦手だが覚悟して走り出す。
思い浮かぶのはお泊り会の夜の話、元就の好物から始まって色んな話を聞かせて貰った。
三人ともがとても博識で、それなのに会話が漫才のようになることもあってとても楽しかった。
残念ながら、あまり夜更しに慣れていない月子は気が付いたら寝てしまっていて、朝起きた時に市から晴久に姫抱っこで布団に運ばれたのだと教えられて仰天したのは良い想い出になった。
もちろん、起き出してきた晴久に一番にその事を謝って真っ赤な顔で吃ったのを笑われたのも、だ。
「月子、今日は遅いんだな」
「晴久先輩! おはようございます。出掛けに母に捕まってしまって」
息が上がりつつも教室に辿り着けば、直ぐに気付いてくれた晴久に声を掛けられてホッとする。
自然と笑顔になるが、遅い理由を口にする時には眉が下がって苦い顔になったに違いない。
ぽんっと頭に乗せられた手のひらが月子にそう確信させる。
「なんかやらかしたのか?」
「いいえ、忘れ物がないかの確認だけでした」
「そっか」
心配してくれる晴久に、にこりと笑んで言う月子はそれ以上の追随を拒絶した。
晴久はその思いを汲んでくれたのだろう、頷くだけでなにも言わなかった。
そして今日も日常を過ごし、家に帰宅すると業を煮やし始めていると思っていた両親はとっくに煮やし尽くしていたらしい。
見合いの日取りを告げられ、翌々日には転校することまで決定時効として告げられ月子は覚悟を決めた。晴久には何も言わず、ひっそりと転校し全てを諦めることを……。