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砂漠の月

第1章 砂漠の月00~70


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――勘違いせぬ事よ、我は貴様を信じぬ

ヅキリと痛んだ胸を押さえ、月子は声を漏らさぬよう唇を噛みしめる。
晴久を大事にしているのを痛感して、一時の己の望みの為に元就のその気持ちを蔑ろにしているのではと思い至るとどうしていいかわからなくなってしまい、月子は自分で決めた道を見失っていた。
市からは大丈夫だと言われたが、晴久を半ば騙しているようなものであるのも否定出来なかった。

「はっ……」

元就から言われた言葉を考えれば考えるほどに、月子は呼吸の仕方まで忘れ詰まった息を勢いよく吐き出した。
数日前のお泊り会で、夢のような時間を過ごした月子は自宅に帰宅してから両親に執拗なまでの詰問を浴びせられていた。
それは市との関係性であったり、時折送ってくれる晴久とのことだったりだが月子に答えるつもりはない。
そして両親は月子が頑として答えないことに業を煮やし始めている。

「月子、そろそろ教えてくれても良いじゃないの。織田グループの姫君と仲が良いのでしょ?」
「お答えする必要性を感じません」
「そんなことないでしょう? 素直に答えるなら、あのお見合いのお話だってお断り出来るのよ?」

ねっとりと絡みつくような猫なで声で母親に問い詰められ、月子は内心でうんざりする。
元就のあの言葉が否定出来ないのも、この両親の態度があるからだ。
月子自身にそのつもりはなくとも、両親が狙うことは容易に想像出来ていた。
だからこそ、月子は挨拶と差し入れだけで満足して諦めようと思っていたのだ。

「お答えする必要性を感じません」

見合いを断るという言葉に一瞬浮かんだ迷いは、お泊り会の時に見れた晴久の笑みで掻き消えた。
この両親が介入すれば間違いなく迷惑をかけるのだ。絶対に阻止する、と心を決めて無表情で同じ言葉を繰り返す。
そうすれば、イライラとした表情で母親が睨みつけてくるが月子は何も感じなかった。
いっそ会社など潰れてしまえばいいのに、そう思わずにはいられない。
母親の横をすり抜け、月子は玄関を出た。とんだタイムロスだ。

「いってきます」
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