第2章 砂漠の月71~150
問い掛けに緩く首を振った月子は、安堵から込み上げる涙をそのままに晴久に抱き着くと泣き出す。晴久も深く抱き込んで、心の底からホッとしながら呟き抱き上げると部屋を出ようと歩き出す。
副支配人も顔を蒼くしながらも月子の無事に安堵の息を吐き、休める場所へ案内しようと先導し始めた所で背後から愚かにも主催者の息子が声を上げた。曰く、彼女はもう自分のものだ、と。
その言葉にピタリと足を止めた晴久が振り返り目を眇め男性を見やれば、怯えながらも自分の父が一番だとでも思っているのか父の威光を自分の物の様に言いながら渡せと言ってくる。
「彼女はその美しい姿のまま、私のコレクションに加えられるべきなのだっ!」
「……己の実力無しに宣う言葉だけは一人前か。お前が何に手を出したのか、その身を持って知れば良い」
冷酷な目をした晴久は、低く怒りをはらみながらそれを抑えた声で一言返すとそれ以上は聞く気はないと言わんばかりに副支配人を促し部屋を出て行った。
後には腰を抜かし、みっともない恰好でわめく男性と、元就が乗り込んだ弟の部屋から様子を見に来た父親が男性を怒鳴りつける姿だけがそこに残った。