第2章 砂漠の月71~150
「……仕方がないね。私は本来人形が好きなのだよ。珍しく生きた女性に興味を覚えたんだが、いう事を聞かないなら君にも人形になってもらわなければ。何、数日我慢してくれれば終わりだ。二度と何も考えまい」
「な……にを……」
渡された服に着替えるのを拒み、所有を否定した月子に目を眇めた男性は注射器を取り出しながら言う。
小瓶からトロリとした液体を注射器に吸い出しながら、残念そうに告げると一歩ずつ月子に迫ってくる。
にじり寄ってくる男性の雰囲気の怖さに顔を青ざめさせながら、ベッドの上で何とか逃げようと後ずさるが直ぐにベッドへッドに辿り着き動けなくなる。
注射器の中身はドラッグなのか、それとも別の何かなのか月子には予想もつかない。
間近に迫った針がいよいよ月子に刺さろうとした時、パニック寸前の月子が悲鳴を上げるのと同時にベッドルームのドアの向こうで何かが吹き飛ぶ音が聞こえ男性の動きが止まった。
思わず月子も男性と同じようにベッドルームのドアを凝視すれば、それもガンッという鈍い音と共に蝶番ごと外れ内側に倒れ込んでくる。そして、その向こうに見えたのは月子が信じていた人で、姿を見た瞬間に極限まで張りつめていた緊張の糸が切れて意識を失った。
「月子ッ! てめぇ、月子に何してやがった!」
晴久が男性を風の婆娑羅で吹き飛ばし月子の姿を確認出来た時には、月子は意識を失いベッドの上に力なく倒れていた。
慌てて駆け寄った晴久が男性を睨みつけながら言えば、ヒッという情けない悲鳴と共に抜けた腰を引きずってはいつくばりながら後ずさり返事が来ない。
周囲を見渡し、ベッドのすぐ脇に割れた注射器を見つけ眉を寄せると月子の顔を覗き込む。呼吸も確認したが苦しげな感じはせず、身体の見える部分を確認しても注射器を刺した後は見つからなかった。
頬を軽く叩いて呼びかけると、暫くしてうっすらと目が開きほっと息を吐く。
「何された?」
「まだ、何も……晴久さんっ!」
「……無事で良かった」