第2章 砂漠の月71~150
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元就が市が居るだろう部屋に向かうのと同時刻、晴久は副支配人を従えて月子がいるだろう部屋に向かっていた。
部屋の説明を聞く限り、鍵を開けてもチェーンがされていればドアを壊すしかない。それを確認し、副支配人に告げながらドアの前にたどり着く。
副支配人がマスターカードを取り出し、鍵を開けると予想通りチェーンがかかっている。壊していいかと副支配人に声を掛けた瞬間、中から月子の悲鳴が響き晴久は副支配人の返事を待たずドアに手を掛けてチェーンを引きちぎった。
――時間は少し前に遡る
月子は化粧室で用を済ませて出たところだった。
「毛利月子さん?」
「え?」
流暢ではあったがどこか日本人のそれとは違う発音で名前を呼ばれ、月子は思わず立ち止まり振り返ろうとした。
しかし、それは叶わず両腕と口元を抑えられて声もあげられないままにどの場所から連れ去られた。
必死に暴れて晴久を呼ぼうとしたが、自分より体格の良い男性らしい人物には抗うことは難しかった。
連れて行かれたのは上階にあるスイートで、ベッドに投げ出されてようやく振り返るとそこにはパーティー会場で主催者に息子だと紹介された月子より年上の男性がいた。
「ふふ……これで君は僕の物だ」
「やっ……やだっ!」
「抗っても無駄だよ。君を連れてきたことは誰も知らない、さぁ……まずは君のその美しく可憐な姿を堪能しよう」
一歩ずつ近づいてくる男性の言葉に、違う! と必死に抗おうとするが、男性の言う通り月子では何をすることもできない。
身体に触れられるようなことになれば自分は逃げることはできないと正確に悟り、怯えていたが男性が持ち出したのは上半身が着物で下半身がスカートという所謂和風ゴシックロリータと呼ばれる、月子は見たことがない洋服だった。
「それに着替えなさい」
「い、嫌です。わ、私は帰りますっ……帰してっ!」
「何を言っているんだい? 君はもう私の物だと言っただろう」
「違いますっ、私はっ、私は、晴久さんのモノです! あなたなんかじゃないっ!」