第1章 砂漠の月00~70
「お名前、私も晴久も月子ちゃんって呼んでるのに月子ちゃんは苗字に先輩呼びなんだもの、ね?」
「で、でも、お……」
「月子ちゃん?」
「うっ……い、市、先輩……」
理由を説明されたが、今この状態だけでも奇跡に近い月子は戸惑い断るための言葉を探す。
そして、それを告げるために織田先輩と呼ぼうとして無言の圧力を掛けられたため、早々に屈してしまった。
市先輩と呼べば、良く出来ましたと言うようにほっそりとした手が柔らかく月子の頭を撫でていき目線で晴久を示される。
ちらりと月子が視線を向ければ、呼ばれるのを待つように晴久が月子を見ていた。
絡む視線で頬が熱くなって、視線を彷徨わせて逃げ道を探したが期待されているような錯覚をも覚えてしまい恐る恐る晴久を見て口を開く。
「は、るひさ、せんぱい」
緊張が過ぎて、舌足らずな言い方になってしまったが月子がなんとか名前で呼ぶと、初めて晴久の破顔した表情がお目見えして目を見開く。
良く出来ました、とこちらは犬か猫でも褒めるように勢い良く頭を撫でてくるので受け止めきれず、にゃーと変な声が月子から発せられたが真っ赤に染まった顔が隠せるならと甘んじてやられっぱなしになる。
最後に元就を示されそちらを見たため視線が絡んだが、月子はしっかりはっきりと向けられた視線の意味を理解した。
「毛利先輩」
「分かっておるではないか」
緊張することもなくすんなりと言えば、元就の満足気な声が聞こえ市がそれにぶーぶー言い始める。
ひとしきりじゃれた所で、市に案内されて荷物を置かせてもらうと食事の準備をするというので手伝い、風呂など順番に済ませた。
もう寝るだけだと寝間着にしている浴衣に羽織を羽織って市の部屋に行き、そこで再びサプライズに突撃されることとなった。