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砂漠の月

第1章 砂漠の月00~70


08

月子は今日のお泊り会では驚きの連続だった。
迎えに来たのが現教員の黒羽だったことに始まり、その車の高級さ、着いた家の大きさ、さらに中に入った時に居た人物二人には声も出ずなんで? ややして零れ落ちた言葉にサプライズと返されて心の底から感謝の言葉を絞り出した。
しかし、そのサプライズは色々と支障もあった。もちろん、月子一人にとってだが。
何が支障かといえば、押せ押せを装うのが難しいどころか無理だという点で非常に支障があった。
目の前には自宅のように寛いだ晴久と元就が居て、制服ではなく着流しだろう品の良い着物を着こなしている。

「月子ちゃん?」
「うぅ……心の準備が……」

無理、と状況を実感すると共に小心者の素が出てきてそろそろと市の背後に移動すると隠れるようにそこに張り付いてしまう。
月子の様子が不思議だったのか、盾のようにされた市が問うように名前を呼ぶのでか細い声で本音を告げれば苦笑された。
ただ、引き剥がされなかったので理解はしてもらえてるようだと思った月子がそのまま市の背に懐いて俯いていると暫くして足元が翳ってしまった。

「う……?」
「いつまで市に引っ付いてんだよ。ほら、こっちこい」
「みゃっ?! あ、尼子先輩っ?! まっ、まっ」

足元に出来た影を不思議に思って顔を上げれば、がっしと首根っこを掴まれて猫のような悲鳴が上がってしまった。
誰がと思うまもなく聞こえた声に晴久だと気付くが、待ってと言う前にズルズルと市から引き離されて月子は縋るように市を見る。

「織田せんぱぁいっ!」
「うん、月子ちゃん。せっかくだからそれ止めようか」
「ふぇ?」

助けてという意味で名前を読んだが、返ってきた市の言葉に意味がわからず状況も忘れてきょとんとした表情で間の抜けた声が出た。
ふわりと身体が一瞬浮いて、気付けば月子は先程まで晴久が寛いでいたソファの一角に腰を降ろさせられている。
そして市と晴久ににこりと微笑まれ、赤面と蒼白面を器用に両立して訳がわからないとその綺麗な二人の顔を交互に見ることになった。
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