第1章 砂漠の月00~70
にこにこ、にこにこ、ととにかく押せ押せで行くしかない、と自己紹介を言い切り、もちろん織田先輩と毛利先輩もよろしくしてくださいー! と人懐っこさを表現してみる。
周囲には滑稽に見えるだろう、何人かの女子生徒には嫌そうな視線を向けられた。月子は今後の事を思い、心の中で改めて覚悟を決める。
この月子は、今日、今から、自分が諦められるまで……もしくは見合いの日取りが決まるまで限定だ。見合いが決まってしまえば、最悪学校を転校することになると聞いているのだ。
最後に派手に弾けて消えても、いっそ花火みたいに綺麗かもしれない。そう言い聞かせて、月子は更にその人物に近づいて固まっているのを良いことに手を取りぎゅっと握る。
ぶんぶんと握手、と振って見せれば呆気にとられてるのかなされるがままだ。初めての表情に嬉しくて、強張っていた笑顔が自然なモノになる。
ふんわりと、浮かんだ柔らかい笑みは相手にどう見えたか月子には想像も出来ない。内心で必死なのだ。
「あ、じゃあ! 今はご挨拶だけしたかったので私はこれで! 今日からどこかで会ったらご挨拶させて頂きますから、よろしくお願いしますね!」
目一杯の笑顔で、ぱっと手を離すと市と元就から何かしら言われる前に駆けだしてその場を逃げ出した。
そのまま誰も来ない空き教室に飛び込むと、壁にもたれてズルズルと崩れ落ちる。
「き、緊張した……勢いとはいえ、に、握っちゃったよ……」
初めてだぁ……と呟き、握った時の自分よりもずっと大きくしっかりとした手の感触を思い出して頬を染める。男性と手を握ることもしたことがない月子にとって、今日のアレはパニックが起こした奇跡である。
うわあぁぁぁっ! と、声にならない声を上げて床に転がるとごろんごろんとほこりが付くのも構わず悶える。しばらくしてピタリと止まると、この後から持つかな……と小さく呟いて動かなくなった。
そんな月子が慌てて飛び起きて自分の教室に戻るのは、朝のホームルームを知らせる鐘が鳴る頃である。
月子はその日、初めて遅刻すれすれで教室に駆けこむということを体験した。