第2章 砂漠の月71~150
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晴久と月子が中庭に面した縁側で寛いで月見をしている頃、市は元就に誘われて家の屋根に上っていた。
足場は悪いが、天には近く、市と元就は屋根の棟に腰かけて市の膝には食べるために作った月見団子を入れたタッパーが一つ。
蓋を開ければすぐに元就が手を伸ばし口に放り込んだ。無言で食べるのは美味しい証拠で、穏やかな表情で咀嚼している元就の顔を横から眺めて市はにっこりと微笑む。
自分も食べようかと視線を下に向けると、口元に白い団子が差し出されて思わずぱくりと食いつくと、それを持っていた元就の指まで口に入れてしまって慌てて顔を離す。
「なかなか大胆よな」
市の唇が離れた指先を自分の方に引き寄せ、ぺろりと舐めた元就が面白そうに市を見れば、目を見開いた市が真っ赤になって反論しようとして団子を勢いよく飲みこみ咽る。
「んっ……ぐっ、けほっ、ちがっ、けほ、けほっ」
「慌てて飲むからよ、あほぅ」
「酷い、原因そっち……」
呆れたように言う元就に、なんとか飲みこんで元就が預かっていた水筒から出してくれたお茶で落ち着きながら、市が拗ねるとふっと元就が笑みを零す。
ゆったりと頭を撫でる手に、市の拗ねはさほど時間は持たなかった。すりっと猫の様に撫でる手に擦り寄ると頭から肩に滑り降りた手がそっと身体を引き寄せる。
それに逆らわず元就の肩に頭を乗せると、夜闇の中で煌々と輝く月を見上げる。
戦国の世では青白く見えることの方が多かったそれは、今は黄色みが強くなってはいたが変わらず美しい。
ほぅっと吐息を零したのは市で、元就は月よりも自分に寄り添う市の表情を眺め、目を細めていた。