第1章 砂漠の月00~70
「え?」
家の場所を尋ねられ、素直に答えた月子は聞こえてきた言葉がにわかには信じられず聞き返す。
しかし、晴久は再度言うことはなく月子はいつも曲がる道を直進させられて、どうしたらいいかもわからず後を付いて行く。
晴久の家の前まで着くと門の内側で待つように言われて、月子は言われた通りぼぅっと突っ立って待っていた。
何か渡される物でもあっただろうかと考えてみても思い浮かばず、晴久が戻ってくるのを待っているとものの数分で本人が戻ってきた。
戸惑っている月子を気にも止めず、その腕を取ると晴久は再び道路に出た。
「あ、尼子先輩?」
「もう暗いから送ってやるよ。荷物も置いてきたし、問題ないぜ?」
「え、やっ、でも!」
「月子は友達だろ? 女の子なんだし、物騒だろうが」
「へ、平気ですよ! 私なんてっ」
訳がわからず声を掛けた月子に、晴久はこともなげに送って行くと告げた。驚いて、嬉しいけど迷惑を掛けたくない、そんな一心で断ろうとした月子に晴久が追い打ちをかける。
まさか彼女でもないのに女の子だからなどという理由で送って貰えるとは思わず、反射で自分を卑下した月子に晴久が立ち止まって振り返るとしかめっ面でこらっと怒る。
「自分を粗末に扱うな」
「でも……」
「でもじゃない。いいか? 俺は友達のお前になんかあるのは嫌だ。家が正反対なら仕方ねぇけど、近いんだから送ってく方が安心だ。それとも、俺に送られるのは嫌なのか?」
「そ、そんなこと! でも、その、誤解とかされたら迷惑をお掛けするんじゃ……」
晴久の言い分に納得しかけ、最後に少しだけ不安そうに問われて月子は慌てる。しかし、彼女でもないのにこの状態を見た誰かは勘違いしないだろうか? そんな不安が零れ出れば、晴久が表情を緩めフッと小さく笑みを見せた。
市へ向ける笑みとは違うが、仕方ない奴、とでも言われたような笑みで月子はドキリと鼓動が跳ねるのを感じる。
赤くなる頬を隠したくて本日何度目になるのかわからないが顔を俯かせようとすると、手で頬を包まれて晴久の顔を直視させられる。