第1章 砂漠の月00~70
「どうした、どっか痛いか?」
「え?」
「痛そうな顔してる。どっか打ったりしたか? それとも、腹とか頭が痛いとかか?」
「い、いえ、大丈夫ですよ。どっこも痛くないです!」
俯いた月子に、いつの間に見ていたのか晴久が心配してくれるのを笑顔で誤魔化すとお返事はまた後でしますね! と言い置いて月子は教室に戻っていった。
教室で受け取った手紙を開くと、週末のお泊り会のお誘いが書かれていた。
なぜ自分が? と思うものの、市に対しても女性としての憧れを持っている月子には断るのも心苦しい。
「行ってもいいかな……」
不安はあるが、女性からの誘いであるし両親が否やを唱えることはないだろうと思う。
誘って貰える理由だけが月子には解せない部分ではあったが、滅多にお泊り会など参加出来ない月子は行く返事をすることにして一限の準備を始めた。
そして夕方、部活動が終わるのを見計らって行けば今日は早目に終わったらしい晴久が月子の姿が見えないのを気にして待っていた。
「す、すみません! お待たせしちゃってたんですね!」
「いや、大丈夫だ。ここんとこ連日だったから、なんかあったのかと思ったんだけど余計な世話だったな」
誰かを探すような仕草に待ち合わせかと足を止めた自分を見て駆け寄ってくる晴久に、月子は漸く待たれていたことに気付き慌てて謝罪する。
しかし、晴久の方は気にするなと軽く流すと月子が恐る恐る差し出した差し入れを受け取って中を覗き込んでいる。
「あの、中に織田先輩へのお返事も入れたのでお手数なんですが……」
「ああ、わかった。渡しとく」
「お手間かけて申し訳ないです。放課後教室にお邪魔したんですがすれ違っちゃって」
中を検分する晴久に忘れないうちにと自己申告すれば、一つ返事で頷かれて月子は深々と頭を下げる。
それから、一応自力で渡そうとした旨を付け加えれば、そうなのかと驚かれたが何か思うところがあるのか気にするなと頭を撫でられて顔を俯かせた。
少しの沈黙の後、途中まで一緒に帰るかと誘われて月子が小さく頷くと晴久が先に歩き出し、月子は一歩後ろを付いて行く。
「家はどの辺なんだ?」
「えーっと……〇〇の辺りって言うとわかりますか?」
「ああ、じゃあ俺の家の前通れるな」