第2章 砂漠の月71~150
74
いつも通りの格好と言われ、市は手持ちの着物の中から着る物を選んでいたが前日に顔を出した元就に一式渡されて目を瞬かせた。
同時刻頃、毛利家でも晴久が顔を出して以前買った着物など一式を着てくれと月子に頼んでおり、頬を染めつつもコクリと頷いていた。
そうして迎えた当日、天気は澄み渡った青空が清々しい秋晴れで、雹牙の運転で四人は六義園を訪れていた。
「綺麗に晴れて良かったですね」
「そう、ね。紅葉も見頃で、タイミングが良かったわね」
珊瑚色の地色にクリーム色の縞模様と所々に吉祥文様の入った着物に黒の地色に花札模様が入った帯を締めて、それに合う小物を身に着けた月子とボルドーの地色に唐草の模様が入った着物をクリーム色に真っ赤な金魚と黒猫が大きく入れられた帯を締めて、それに合う小物を身に着けた市が並んで歩く。
その後ろで若草色の着物と同色よりやや渋く濃い色にアラベスク模様の入った羽織の元就と、今様色の無地の着物にやはり少し濃い色目の格子模様の変形のような柄の羽織を着た晴久が続く。
着いてから、一番に紅葉へと目を奪われた女性たちは男たちを置いて先に歩き出してしまったのだ。
「なんでここまで来てお前と並んで歩いてんだろうな」
「それは我の台詞よ」
市と月子が楽しそうなのであえて黙ってはいるが、やや不満である晴久と元就はこっそりとどつき合いをしている。
着物姿が様になっている四人組は非常に注目されているが、その視線は全く気にしておらず写真を隠し撮りされていると雹牙が咎めて回っていた。
渡月橋の中ほどまで来た所で市と月子が振り返り、笑顔で元就と晴久に手を振る。
その姿に思わずスマフォを構えて、晴久と元就がシャッターを押してからゆっくりと追いつく。
「紅葉撮ったんですか?」
「いや、月子撮った」
「えぇ?!」
「元就は?」
「もちろん、市を撮ったが?」
「何してるの……」
シャッターチャンスに撮ったのはもちろん、互いの恋人で満足気な晴久と元就は消してと言う二人の言葉は綺麗に無視して厳重に保存していた。
自分の選んだ着物を纏って嬉しそうに笑う様は、独り占めしたいし自慢もしたいと相反する感情を呼び起こす。