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砂漠の月

第1章 砂漠の月00~70


月子が拗ねた顔でぶつぶつ言っているのを宥めるように帽子を取った頭を撫でる晴久の手と、未だ繋いだままの手の指が甲を撫でるのに絆されて小さく頷くと月子は席を立つ。鞄を晴久に預け、店員に案内されるままに別室へと向かう。

「反物は、仰っていた系統の物で揃えましたが、いやはや、可愛らしいお嬢様ですな」
「ああ、可愛くて仕方ない」
「おやおや……晴久坊ちゃんからそんなことを聞かされるとは、歳は取ってみるものですな」
「からかうなよ……反物見せてくれ」

月子を見送っていた晴久は店長の言葉に思わず素で頷いて、はっと我に返って店長を見るとにこにこと微笑んでいる。更に坊ちゃんなどと幼い頃の呼び方をされたので、不貞腐れながらもある程度反物を選んでしまおうと催促する。
店長の方もそれ以上からかう気はないのだろう、はいはいと言われた通りに反物を見せて行く。
健康的な肌色をしている月子には淡い色合いでも色味を選べば浮くことなく着られるだろうと、似合いそうな反物をいくつか選んでみる。
元就たちが家族になった記念だと言って着物を買った時の色味は外して貰っているので被ることもない。

「……それ、いいな」
「これでございますか? 確かに、先ほどのお嬢様ならお似合いの色味かもしれませんね」
「あと、そっちと、それ取っといてくれ。他はいいや」
「かしこまりました」

ある程度反物を絞り終えた所で月子が店員と戻ってきて、広げられた反物に目を輝かせる。
晴久はその月子の様子に微笑み、呼ぶとその場で立たせて反物を当ててみる。最終的には濃い珊瑚色を主体にした可愛らしい反物を選び、それに合う帯も小物も結局晴久が全部選び、購入したので月子がまた慌てたが仕立て上がったらそれを着てデートしようと言われて頬を染めるとコクリと頷いた。
晴久の行きたい場所とやりたいことは呉服店での月子の着物選びだったようで、呉服店を出るとどこに行きたいかと尋ねられ月子は僅かに首を傾げる。
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