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砂漠の月

第1章 砂漠の月00~70


デートという言葉に頬を染め、どもってしまう月子を内心で苦笑するが照れくさいのは自分も同じで、晴久は繋いだ手に力を入れたり親指で手の甲と時折撫でたりしながらゆっくりと月子の歩調に合せて進んでいる。
行き先は月子が初めて晴久のことを知った呉服店だった。

「お着物か小物を買われるんですか?」
「ん? ああ、まぁな」

きょとんとした表情で見上げてくる月子に、楽しげな笑みを浮かべながら返事を濁した晴久は促して店内に入る。
店員は晴久を見ると心得たかのように店の奥にある応接室に通し、店長を呼びに行った。初めてのVIP対応に月子はおどおどとしてしまい、繋いだままの手にきゅぅっと力が入る。
晴久がそれを落ち着かせるように指で手の甲を撫でて握り返す。そうしている間に店長が反物を持った店員を引き連れて部屋に入ってきた。

「おはようございます、お待たせいたしました」
「いや、こちらこそ無理を言った」
「いいえ! 滅相もございません! それで、お仕立てするのはこちらのお嬢様のお着物と小物一式でよろしいのでしょうか?」
「ああ」
「えっ?!」

驚く月子にしてやったりとした顔をした晴久がにこりと微笑み、店長は二人の様子を微笑ましげに見ている。
暫くして二人が落ち着いた頃、店長が改めて声を掛けてきた。

「それでは、お嬢様には寸法を測らせて頂きますので別室に少しばかり移動して頂いて、尼子様は反物を選ばれますか?」
「ああ、頼む」
「承知いたしました。おい」
「はい」
「え? ちょ、晴久先輩っ?!」
「どうしてもな、月子にやりたかったんだ。だから、まぁ、俺の我儘に付き合うと思って諦めてくれ」
「そんなっ……ずるいっ! もぅ……」

店長の言葉と当然の様に頷く晴久に何も聞かされていなかった月子だけが慌てていたが、名前を叫んだ月子に困ったような笑みを浮かべた晴久が顔を覗き込んで伺うように言われ口籠る。
晴久に強請られる様に言われては月子はノーと言えない。内容にもよるが甘えられている様で嬉しくなってしまうのだ。とはいえ、内容が内容だけに拗ねたような顔になるのは致し方ない。
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