第1章 砂漠の月00~70
晴久と行く場所ならどこでも構わないが、デートと言うならやはりやってみたいことはある。恐る恐る晴久を見れば、ん? と首を傾げ柔らかい笑みを浮かべている。その表情に促され小さな声で告げると、晴久が笑みを深めて行くかと指を絡めてくる。
歩きだせば周囲から視線が向けられるが二人には関係なく、楽しげに会話を交わしながら歩く。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「いいや、俺の方こそ付き合ってくれてありがとうな」
呉服店を出た後、月子が前から行ってみたかったカフェで食事し、映画館で映画を見て戻る頃には夕方で二人は帰路についていた。
今日の食事は市が元就の所に来ているはずで、月子はゆっくりと時間を使える。晴久もそれを知ってるので、少し考えて口を開く。
「うち、寄ってくか?」
「え? でも……」
「いつも市んとこばっかりだしな。入ったことないだろ」
「……行きたい、です」
僅か戸惑った月子だが、好きな人の部屋というのは気になるものでコクリと頷く。手を引かれて訪れた家で、大歓迎されて晴久の部屋に行くどころかリビングで足止めされて結局散々晴久の家族に突っつかれるのは予想外の出来事だった。