第1章 砂漠の月00~70
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学校も用事もない休日、月子はそわそわと自分の服や髪型を気にして落ち着きなく朝を過ごしていた。
「ふふ、可愛いわねぇ……」
「せっかく可愛い娘が出来たのに、もう取られるのが確定しているのはなぁ」
「何言ってるんですか」
そわそわと荷物の確認などをしている月子を眺めている両親が、微笑ましげに会話を交わしているとインターホンの呼び鈴が鳴り月子がぱっと顔を上げた。
パタパタとインターホンに駆け寄ると解錠して荷物を手に両親を振り返る。
「いってきます!」
「いってらっしゃい」
「気を付けて行ってきなさい」
「はい!」
にこりと笑顔で声を掛けられて、両親も笑顔で見送ると月子は足早に玄関へと向かっていく。玄関には入ってすぐのところにあまり見慣れない洋服姿――Vネックの柔らかそうなセーターを着て、下はヴィンテージ物の黒のジーンズを着ている晴久が立っていた。
「晴久先輩!」
「おう、準備できたか?」
「はい!」
見慣れないが似合っている姿に頬を染め、はにかみながらもこっくりと頷いた月子も柔らかい色合いのふんわりとしたニットワンピースに十分丈のレギンスを合わせベレー帽をかぶっている。
用意していたバレイシューズを履こうとすると何も言わなくとも手が差し出され、月子も無自覚にその手に自分の手を預けて支えにしながら靴を履く。
用意が出来て顔を上げると指を絡められて月子の方が思わずピクリと揺れたが、すぐにきゅっと指に力が入って晴久の口元が緩む。
そのまま二人玄関を出ると歩き出す。
「今日はどこに行くんですか?」
「特に決めてねぇけど、どうしても行きたい場所が一つあるから最初にそこ行っていいか?」
「はい、もちろん」
「ん、サンキュー。後は月子の行きたい場所に行くか。折角デートすんだし、俺の行きたい場所ばっか行ってもな」
「で、デート、ですか……」
「デートだろ?」
「うっ……はい」
わくわくとした表情で尋ねた月子にクスリと笑いながら言う晴久も楽しげで、月子の手を引いて歩いている。