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砂漠の月

第1章 砂漠の月00~70


06

翌日、月子は内心で心臓が飛び出そうなほどドキドキしながら廊下を歩いていた。
昨日の出来事が夢のようで、今日も教室に行けば引かれ気味な反応が返されるのではないかと不安が襲ってくる。
徐々に足取りが重くなる月子の背後から、不意に手が伸びて頭にそれが乗せられた。

「よっ、月子。どうした?」
「あ、尼子先輩?!」
「ん?」

ぽんっと一度跳ねた手が離れるのと同時に掛けられた言葉に、月子が慌てて振り返ってみれば不思議そうな表情で立つ晴久がいた。
隣にはもちろん、笑顔の市と不機嫌そうな元就が立っていて月子の驚きと高揚は直ぐに萎んでしまったが、晴久が首を傾げて居るのに気付いて意識を戻すと慌てて首を振ってみせた。
なんでもないという意思表示だったが、晴久はほんとか? と顔を覗き込んでくる。

「ほ、本当です! き、教室にもういらっしゃると思ってたので驚いて……」
「ああ、そうか。驚かして悪かったな」

近づく顔にどうしても赤らむ顔が誤魔化せなくて、月子がコクコクと頷きながら言い訳をすれば晴久は納得したように頷きまた月子の頭の上で手を跳ねさせた。
隣で相変わらず市がにこにことしているので、居た堪れなくなってきた月子は元就の視線を避けるようにジリジリと移動しながら朝の挨拶を済ませる。
じゃあ! と言い逃げしようとしたところで、晴久に手を掴まれて引き留められた。
何事かと固まると、一通の手紙を差し出されパニックになる。

「市から月子にだってよ」
「お、織田先輩、から?」
「そう、よ。良かったら来てね。お返事は晴久にで良いから」
「え、あの……」

手紙の内容が想像も出来ず、ありえないのに告白の手紙かとまで思って真っ白になっていた月子は投げられた差出人の名前に正気を取り戻すと首を傾げた。
最近は晴久にも何も言わずに先に教室へ行ってしまう市がその場に居て、内容に関わることを言ってくるのに戸惑いもたもたしている間に市は元就を連れて教室に入ってしまった。
どうしたら良いのかわからず、手紙を手に持ったまま晴久を見れば相手は苦笑を浮かべて市の背を見ていた。
その視線の柔らかさに月子の心の柔らかい部分がツキリと痛む。
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