第1章 砂漠の月00~70
何度も触れて離れる柔らかな感触に月子はそれが何か思い至って息を止めた。頬に昇る熱はどうしようもなく、徐々に足や腰に力が入らなくなってくる。
軽く羽根の様に触れていたそれが漸く離れると、小さく息を吐いた月子は晴久の胸に顔を埋めきゅっと手に触れていた服を握り込んだ。
「ずるい、です……お返事、ちゃんと出来なかった……」
「ふっ、悪い。月子が可愛くて我慢出来なかった」
「意地悪です……」
「ん。なぁ、月子。二人っきりの時だけで良いから、それやめねぇ?」
「え?」
「敬語。両想いで恋人、だろ?」
「うっ……努力、する」
「うん、はは、ありがとうな!」
しがみついたような状態で小さく抗議すれば、謝罪の様に頭頂に何かが触れる感触があり謝罪が返ってくる。それだけで、月子は許容量が一杯になりかけ、持ち直してきた足の力が抜けてくる。
腰を支え、すっぽりと自分の内側に収めるように抱き込んだ晴久が月子の頭頂に口付けながら強請った内容に、月子には予想外だが嬉しいもので言葉に詰まりながらもコクリと頷いた。
晴久は嬉しそうに笑い声を上げながら月子が自分で立てるようになるまで抱きしめ、腕を開放すると指を絡めて手を繋ぐ。
今までのつなぎ方ではなく、いわゆる恋人つなぎに頬を染めながらも嬉しそうにはにかむ月子を連れて教室へ戻るため、温室を出た。
教室に戻ってから市と元就に報告して遅いと突っ込まれたり、翌日差し入れに来た月子に近寄る部員たちを寄るな触るなと堂々と追い払える立場になったことを心から安堵する晴久が居たとか。