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砂漠の月

第1章 砂漠の月00~70


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――すき? 誰が? 誰を? 何を?

月子は自分を抱きしめる腕の中で、告げられた言葉を上手く飲み込めず大いに疑問符を浮かべて固まっていた。
柔らかな抱擁ではなく、逃がさないように閉じ込めるような強さで抱きしめられていて、思考が止まってしまった月子は返事を返す余裕すらなかった。
月子が固まったまま戻ってこないことに気付いた晴久が腕を緩め顔を覗き込むと、呆然とした表情でゆっくりと視線が向けられた。
視線が絡むと僅かに唇が動くが、言葉にはなっておらず晴久は迷惑だったかタイミングがまずかったかと僅かに心配になりつつ口を開く。

「月子? 大丈夫か? 俺の言ったこと、聞こえてたか?」
「晴久先輩の、言ったこと……」
「ああ」
「……私の事からかってたり」
「するわけないだろうっ!」

呆然としながらも返事が返ってくるので晴久が確認すると、視線を彷徨わせた月子が予想外の返しをしてきて晴久が食い気味に否定するとビクリと月子の身体が跳ねる。

「あ、悪い……怒ったわけじゃねぇんだ」

ああ、くそっと月子を抱きしめていた手を離し、頭を掻きながら舌打ちをした晴久は目を閉じて深呼吸すると改めて月子に向き直る。
真剣な表情で見てくる晴久に、月子は不安そうに瞳を揺らしながらも真っ直ぐと見つめ返した。

「あんな情けない姿見せてて、月子が直ぐに信じられないのは解る。でも、本気で月子のことが好きなんだ」
「ほんとに?」
「さすがに嘘やからかいでこんなことは言えねぇよ」
「私、皆さんみたいに凄いこと出来ないし、本当に平凡で……」
「お前はお前のまんまが良いよ。月子のこと抱きしめるとホッとする。まぁ、ドキドキもするけどな」
「……嘘、みたい……私、私も晴久先輩のことっ」

晴久の言葉に徐々に視界が水の中に沈んでしまうのを必死に堪えていた月子は、照れた様に笑って言う晴久の言葉に堪えきれず震えた声で必死に返事を紡ぐ。
しかし、好きと伝える前にもう一度腕の中に攫われると柔らかな感触が唇を塞いだ。
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