第1章 砂漠の月00~70
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空手部でトーナメント方式の軽い試合が行われた。
何故か自分が大将となって組まれたのが解せない。おい、主将、仕事しろ。
「あ、月子さんいらっしゃい。尼子さんは今軽い試合中」
「そうなんですか、じゃあここで待たせていただきます」
月子が来たけど、離れられないこの状況に柄にもなくイラッとする
「おい主将、何で俺が大将なんだよ」
「尼子は俺よりも強いからなぁ」
自分の出番がないまま、試合状況を眺めて溜め息を吐く。
一番最後だが俺必要無いだろうが。
「今日は何のお菓子?」
「ええと、今日はカップケーキなんです、ココアの」
「いいなー、月子さん料理上手なんだね」
この苛立つ感情どうしてくれよう、主将を小突いて帰る、と言って道着を脱いでさっさとジャージに着替えた
「帰ろう、月子」
「晴久せんぱい?」
月子の手を引き体育館を出る
つかつかと歩きながらLINEで市と元就に連絡すると2人共教室に居るらしく
ああ、もう、俺はアホだな。
「月子、大丈夫か?」
「え、あの」
「ちょっと、中庭にあるビニールハウスに行くか」
行った事がないと言う月子と手を繋ぎ、ビニールハウスに行くと季節の華が一面に広がってる光景を見て月子は目を輝かせて喜ぶ
ここは姉小路が園芸部で育ててる温室、流石に種類が多いな、と感心する
あー、だめだ、自覚してから俺馬鹿になったんじゃなかろうか
「月子」
「はい?」
前世から、俺は想い人を想ったまま人生が終わった。
今世は想い続けたが伝えずにいたら故に元就にかっ攫われた。
「俺馬鹿だな」
「晴久先輩?」
ぎゅっと、月子を正面から抱き締めれば、顔を真っ赤にして固まった
こんなに、素直な反応してるのに気付かなかった俺も大概馬鹿だ
けして市の代わりじゃなく、俺が素直に安心できる者、気付いたら近くに居て微笑んでくれて。
「月子、好きなんだ」
月子を強く抱きしめて、思わずそんな言葉が零れていた。