第1章 砂漠の月00~70
「どうした? まだなんか心配事があるか?」
「……え?」
「俺から逃げるなら、なんかあるんだろ?」
「そ、れは……」
「会えないのは寂しいけどな、無理強いするつもりはねぇから。けどまぁ、昨日は飛びついてきたのに今日は逃げるから、さすがに傷つく」
「あ、ごめっ……え? 昨日?」
紅い顔で腕から逃げ出そうとするのをいつまでも止めない月子に、不安になった晴久が声を掛けると驚いたように顔を上げた月子の動きが止まる。
捕まえていた腕を緩め、心配そうに問いかけてくる晴久に月子はただ思い出したモノが恥ずかしくて逃げようとしていたため答えようがなく口籠る。
何と言うべきか迷っている間に続けられた言葉は、月子の良心をチクチクと苛み謝罪だけでも口にしようとしたところではたと気づいた単語に首を傾げた。
昨日は晴久に会った覚えがない月子は、きょとんとした表情で首を傾げた。会ったのは夢の中で、優しく抱きしめて背を撫でててくれたのは……と、思い出し一気に今以上に顔が熱くなり固まった。
「なんだ、覚えてないのか? 昨日、全部終わった後に家へ行ったら寝てたのに俺の声に反応してくれて、飛び起きて泣き出しそうな顔してたから抱き寄せたらしがみついてきたんだぞ?」
「うそ……あれ、夢じゃ……」
「ばーか、夢なわけないだろう。なんで夢になるんだよ」
「だって、私、理由も言わずに避けって、嫌われたってぇ……」
「ああ、もう、泣くなよ。それくらいで嫌わねぇって何回言ったら信じられるんだろうなぁ」
夢だと思っていたことが現実で、恥ずかしいやら情けないやらで紅くなったり青くなったりしていた月子は呆れたような、それでいて優しい晴久の声にまた泣き出す。
必死に泣きやもうとする月子を甘やかすように抱き寄せ、背を撫でる手と自分を包む温もりに手を伸ばししがみつく。
わんわんと泣きだしてしまった月子をどうしようも出来ず、晴久は市に冷やすものを持ってきて貰おうとメールを打ちながら月子をあやす。
その顔が幸せそうで家から慌てて出てきた市と元就に後で散々からかわれるとは思ったが、晴久は気にせず月子を宥め続けた。