第1章 砂漠の月00~70
思い出して苦笑しながらもありがとうの言葉に嬉しそうに頬を緩ませ、月子は手早く朝食の準備をするといつもの時間に父と元就も降りてくる。
興元は再び寮に戻っているので今ここには居ない。そうしてご飯を食べて、片付けを母に任せて月子は元就と家を出た。
先に出ようとする月子を元就が引きとめ、今日からはもう大丈夫だからと言い聞かせたためだ。
「あの、でも……」
「其方が気にしておる女はもう学園には居らぬ。雹牙と黒羽の逆鱗に触れたのだ、無事ではすまぬさ」
「え……?」
「別の学校へ転校していった様よ。市が心配して信長公に問うた結果を今朝連絡してきた」
「……そう、なんですか」
無事では済まないという言葉の意味が分からず問い返した月子だったが、元就から答えの様で答えではない言葉を返されてそれ以上聞き返すことは出来なかった。
しかし、元就が居ないと良い、一人での登下校を許していたのに引きとめるならもう安心なのだろうと納得し、月子は久しぶりに元就と共に市の家を訪れた。
玄関先でタイミングよく晴久に会うと、月子は不意に昨日の夢を思い出し恥ずかしくなって元就の背に隠れてしまった。
晴久は月子のその態度に僅かに拗ねた顔をしたが、直ぐに苦笑すると月子を呼ぶ。名前を呼ばれた月子が元就の背から少しだけ顔を出すと、盾にされている元就の方が先にしびれを切らした。
「月子」
「何をしておるか。さっさと行け」
「あ、いえ、そのっ! わっ、まっ?!」
「おっと……」
首根っこを捕まえるように月子を自分の背後から引っ張り出した元就が、ひょいっと晴久の方へと月子を放り出しその腕の中へと納まってしまった。
慌てる月子と機嫌が良さそうに腕に力を入れる晴久を呆れたように横目で見ながら、市を呼びに呼び鈴を鳴らしてから玄関を開けて元就は先に入って行ってしまった。
残されたのは真っ赤な顔で慌てる月子と、クツクツと笑いながらも月子を離さない晴久だけである。道路や家の中からは見えない死角に月子を引っ張り込み、晴久は月子を向き合う。