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砂漠の月

第1章 砂漠の月00~70


「お前に名前を呼んでいいと言った覚えはないな」
「あら……月子には許してるのに?」
「月子だからな」
「……ふーん? 月子なんかのどこがいいの? あんな根暗で、親にも笑わないような子。しかも、あの毛利に行くために親を売ったんでしょう?」

晴久は淡々と無表情に転校生に返したが、気を取り直したらしい転校生は再び笑みを浮かべて首を傾げてみせる。そのじっとりとした気持ち悪さに内心で眉を寄せた晴久は、続く月子の悪口に腹の底に溜まっている苛立ちをふつふつと煮詰まらせる。
しかし、それをまだ吐き出す時ではないと押し留め、ただ冷淡なまでに無表情に転校生を見る。
転校生は晴久のその目にふるりと身体を震わせながらも、自分は正しいと言いたげになお笑みを顔に貼り付けて言い募ってくる。

「……比べようもねぇな」

ぼそりと落とされた言葉は転校生の耳には届かず、目を眇め自分を見る晴久に自分に靡いたかと転校生が口元を緩めたがふいっと背中を向けられて近づいていた足が止まった。
足音が聞こえなくなると、晴久は何も言わずそのまま教室を出て行く。廊下で足を止め、教室の中にまだ気配があることを確かめて足早に帰宅した。遠くで舌打ちする音が聞こえた気がしたが、晴久の預かり知らぬことである。
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