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砂漠の月

第1章 砂漠の月00~70


「ダメ、です……あの人は、ダメです……」
「……何がダメなのだ。たかが女の一人であろう」
「ダメなんですッ!」

たかが、そう言った元就の言葉に月子が誰に怯え逃げているのか気付いていることを悟り、月子は勢いよく飛び起きると元就に詰め寄る。
涙で濡れた顔は苦痛と哀しみにゆがみ、止めてくださいと呟く声は悲痛に響く。元就はそれをただ静かに見つめて月子の視線を受け止めた。

「話さねば我らにも判らぬことは多い。何を怯える?」
「……あの人は、私が幸せになるのを許さないんです。どうしてかなんて知りません。でも、いつもあの人は私が大切にしたい物も人も全部取り上げて、取り上げられなかったら壊すんです。跡形もなく……」
「跡形もなく?」

問い返されて戸惑いながらもコクリと頷いた月子は、幼い頃を思い出してきつく目を閉じる。
信頼していた人の目が蔑み怯える目になっていく様を思い出し、フルリと身体を震わせた。自分たちよりもいくつも年上だった人物が、徐々にすべてを失っていく様を……。そして、それを手引きしていたのが幼い頃のあの人物だということが、一番の恐怖だった。
年の頃は一つしか違わない彼女が、どうしてあんなことが出来たのか、誰に何をどう頼めばあんな風になるのか。

「彼女にとって権力は関係ないんです。私が、誰を、何を大切にしていて、それがどこにあるか判れば、後は壊すだけですから……」
「……だから、離れる、と?」
「今更離れても遅いかもしれませんが、それでも、私がこうしている間は何もしてこないと思うんです」
「情報源は小野か……」
「そう、だと思います。きっと、私のことを彼女に話したんだと……母は、昔から私よりも彼女が好きで、彼女の言うことに重きを置いていましたから」

込み上げてくる嗚咽を噛み殺し、零れてくる涙を必死に止めようと固く目を閉じる月子を元就は思案顔で眺め、頭を撫でる。
そうして、先日問題の転校生が来る直前の日に自宅の外で見た女を思い出し、その姿が重なることを確信する。
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