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砂漠の月

第1章 砂漠の月00~70


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ここ数日、月子はある人物に怯えながらいつも一緒に居た三人を避けるように一人で行動するようになった。
そのきっかけは、市、晴久、元就のクラスに一人の転校生がやってきたことだろう。三人はそれに気付いていたが、話したい月子が一人怯えそれを拒絶するため手をこまねいていた。

「……なんで、どうして。私はもう小野じゃないのに、なんで来るのっ!?」

その日も学校が終わり、月子は誰かしらが迎えに来る前にと急いで帰り支度をするとクラスメイトが心配する中、調子が悪いからと実際に青白い顔をしながら教室を出て行った。
その背をじっとりとした笑みを浮かべ窓から満足気に眺めている人物が居たが、月子は気付かないままで、例え気付いてもどうでも良いことだった。
毛利の家に辿り着き、自室に行くと鍵をかけて閉じこもる。ベッドの中に潜り込み、身体を小さくしてただただ震えて過ごす月子はこの数日はまともに寝れていない。
うとうととするたびに、漸く癒えはじめていた悪夢が月子を叩き起こす。

「月子、入るぞ」
「っ!?」

ノックの音と元就の声に次いでガッ! という音と共に金属が壊れる音がして、扉が開けられた。ビクリと跳ねた月子は、しかし布団から出ることが怖くて出来なかった。
過去、自分が心を許した相手が、その相手の好意に甘えたが故にどうなったのか、今でもその傷は癒えていなかったと気付いてしまったから。

「月子、いい加減事情を話さぬか」
「……」

掛け布団を頭から被って丸くなっている月子の横に、ギシリと音がして元就が座ったのが判ったが動けない。
それでも話さないかと言われて必死に頭を振る月子は、嗚咽で言葉を発することが出来なかった。元就は急かすでもなく、頭辺りと背中辺りの布団の上を撫でているのが振動で伝わる。
その優しい振動に月子は吐き出してしまいたい衝動に駆られるが、ぐっと言葉を飲みこんだ。織田グループの力は大きいが、月子の知る彼女は世間一般の権力は関係ないのだ。
いかなる手段を使っても、月子から幸せをもぎ取ることを半ば生きがいとしているような人物なのだ。
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