第1章 砂漠の月00~70
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月子は自室で課題をやりながら最近のことをつらつらと考えていた。
最近、気付くと月子の傍に晴久が居て、頭を撫でられたり顔を上げると視線が合ったりすることが増えた気がするのだ。
「うーん……気のせいかなぁ……」
シャーペンの後ろを唇の下に当てながらむぅっと唇を尖らす。
僅かだが、晴久と目が合うと顔を赤くしていることがある気もするが、流石にそれはないと首を振る。
何度か赤くなっていて体調が悪いのか聞いたら大丈夫だと言っていたから、きっと暑かったのだろうと納得している。
それでも……。
「いつまで待ったら振り向いて貰うチャンスが来るのかなぁ……」
課題に集中出来なくなった月子はパタリと机に突っ伏すと片頬を机にペタリと引っ付けながら呟く。
夏休みが始まる前、市に聞かれた時にはまだ恋心と呼ぶには曖昧だった想いは今やしっかりと根を張って、枯らすにはバッサリと切り倒して根こそぎ絶やさないとダメなほどに育っている。
腕を少しばかり動かすとしゃらりと華奢な金属の音が響く。
頭を少し動かしてその音の発生源へ視線を向けていると、トントンとノックの音がして扉が開いた。
「月子、時間はあるか?」
「兄さん? どうしたんですか?」
「最近其方の様子が面白いでな、見にきた」
「……面白い、ですか?」
入ってきたのは元就で、身体を起こして不思議そうに首を傾げた月子に珍しく穏やかな表情を見せながらからかってくる。
むぅっと拗ねたような顔をする月子を見てクツリと意地悪く笑う元就に、ビクリと肩を揺らして思わず後ずさる。
その様子に笑みは苦笑に変わり、ぽんっと元就の手が月子の頭に乗る。
「そう身構えるでない。其方を虐める気はない故安心するがいい」
「うっ……ハイ、ごめんなさい」
しゅんと項垂れた月子の頭を元就が優しく撫でる。
大人しく撫でられていた月子は、手が止まると再び名前を呼ばれて顔を上げる。
「月子よ、我が前に言ったことを覚えているか?」
「え?」
「其方が礼を言った時のことよ」
「……私は私のままで居れば良い、ですか?」