第1章 砂漠の月00~70
無性に撫でたくなって、手を伸ばしたが和装に合せて結われている頭を崩すのは忍びなく、軽く撫で叩くに留めると鞄と取ってくるという月子を見送る。
背後からぽんっと肩を叩かれてビクリと身体を跳ねさせると、ニヤニヤと笑いながら自分を見る毛利の母の顔があり、咄嗟に紅くなってしまった顔を隠すように逸らす。
「気を付けて行ってきてね」
「あ、ああ……」
「お待たせしました!」
頼んだわよ? という母の言葉に辛うじて頷き、晴久はどうして自分がこんな気持ちになるのかと内心で考え込みながらも駆けてきた月子に返事を返し先に立って玄関に向かう。
「えと、いってきます、お母さん」
「ええ、いってらっしゃい。楽しんできてね」
「はい!」
恥ずかしいけれど嬉しい、そんな初々しい表情で元気に返事を返した月子を見送って母は家事の続きに戻った。
玄関先では晴久が月子を待っており、草履を出した月子に手を差し出して月子も自然にその手を借りて草履を履くと玄関を開けて貰って出て行く。
「お茶ってどこに行くんですか?」
「んー……あんま遠くない所で、市や元就も気に入ってるとこがあるんだ。まだ月子は連れてってないと思うが」
「私、行って良いんですか?」
「構わねぇだろ」
手を繋いで歩いていることを意識しないように、と月子が必死に話題を探す中、晴久は機嫌よく月子を連れて歩く。
テーマパークで、たまには良いなと思ったのをどうせなら実行してみようかと思ってのことだ。
毛利の母に見られてなんとなく気まずかったのは棚に上げて、隠れ家的な落ち着いたカフェへと月子を案内する。