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砂漠の月

第1章 砂漠の月00~70


「ちゃんと着れてるし可愛いわ。着物と帯の合せも素敵よ。大丈夫だから、そのまま晴久君の所に行きなさいな」
「うぅ……お母さんが意地悪です」
「何言ってるの、褒めてるのに」

着物姿が慣れない月子は恥ずかしいのにと拗ねた顔で母を見て、苦笑されながらもほらほらと追い立てられて晴久が待っているという居間へ行く。
扉の影から顔を出すと晴久は入口に背を向ける形で置いてあるソファに座ってテレビを見ている様だったが、カタリと音を立ててしまい振り返った。
目が合い、扉の影に隠れている月子に目を瞬かせた晴久が立ちあがって近づく。思わず一歩後ずさったが、そのせいで揺れた扉が月子の姿を晴久に見せてしまった。
そのタイミングに息を飲んだのは月子か、晴久か。恥ずかしくて顔を俯かせてしまった月子は、晴久の頬が僅かに染まったのを見逃してしまった。

「あっ……の、こ、こんにち、は」
「あ、ああ。悪ぃ、何かやってたか?」
「いえ! その、暇でぼうっとしてました……」

固まった二人にクスリという声が聞こえ、我に返って慌てて声を出したのは月子だった。晴久の方は口元を手で覆い顔を逸らしながら、答えているが未だ俯いている月子には判らない。
数瞬で落ち着きを取り戻した晴久が問いかけて、漸く僅か月子がぎこちないがいつも通りの会話に戻る。
それを微笑ましげに見ながらも気にしない振りをするのはさすが母だろうか、なんとなく気まずいと思いながらも晴久は月子の方に意識を向ける。

「そうか、あー……俺も暇でな。月子が良ければ近くにお茶でもしに行かないか?」
「えっ?」
「嫌か?」
「まさか! で、でも、じゃあ、私着替えて!」
「いや、そのままで。似合ってるし、新鮮だからな。動きづらいなら着替えるの待ってるが」
「そっ、えっ、うぅ……だいじょぶ、です」
「ん、じゃあ行くか」

何か目的があって来たわけではなかった晴久だったが、着物を着た月子を見て外に連れ出したくなりお茶に誘った。
慌てて着替えるという月子を押し留め、それでも着替えたいならと言葉を繋げればフルフルと首を横に振った月子が恥ずかしそうにはにかんでコクリと頷く。
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