第1章 砂漠の月00~70
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元就が市の家に行くと言ったので、誘われたが遠慮した月子は自室でぼんやりとしていた。
暇つぶしにと以前作った市たちに似せた人形三体に洋服でも作ろうかと広げたものの、やる気が出ずに型紙を起こすところから既に手が止まっている。
「……晴久先輩、何やってるかなぁ」
広げた裁縫用具を片付け、パタリと机に伏せた月子は自然と零れた言葉に思わず伏せていた頭を上げて周囲を見渡す。
自室のため、誰も居ないことにほっとして身体の力を抜くと目を閉じる。いい加減、諦めた方が良いのだろうかと思ってしまう月子だが、晴久に会うとやっぱり好きだなと思ってしまい諦めることも出来ない。
いっそ振られればとも思うが、そうした後に自分が三人の傍に居られる自信もないので意気地なしと思いながらもそれも出来ない。
どうしたら良いのか、ほぼ迷宮入りを果たしてしまった自分の気持ちに深いため息を吐いていると、階段の下から自分を呼ぶ毛利の母の声が聞こえた。
「はい?」
「月子ちゃん、晴久君が来てるわよ」
「ふぇ? 晴久先輩? 兄さんに用事じゃなくてですか?」
「月子ちゃん呼んでくれって言われたもの、月子ちゃんに用事じゃないかしら?」
丁度返事をしようと思った時にノックの音がして返事を返すと扉が開き、何だから含みのありそうな楽しげな笑みを浮かべた母が顔を出した。
そして告げらた思わぬ人物の来訪に、きょとんとした表情をして疑問を口にすればはっきりと否定されて目を瞬かせる。
しかし、ぼうっとしている暇はなく下で待ってるからと急かされて、月子は慌てて椅子から立ち上がるとまだまだ慣れない格好を見下ろして手直しする。
毛利の家に来て、月子の普段着には大幅に和装が増えた。洋服は以前から持っている物で十分だったが、和装好きと知った両親が家族になった記念だと嬉々として買い揃えたのだ。
以前自分で選んで買った着物もくたびれているからと仕立て屋に手入れと手直しに出し、月子は自分でも着付けが出来るようにと時間がある時は練習がてら着物を着るようにしている。
今日は時間があったので和装を着ていたのだが、途端に恥ずかしくなって着替えようとすると母に掴まり外に出されてしまった。